Taipei Exchange Program
台北国際芸術村(Taipei Artist Village)とBankART1929は、平成17年度から毎年アーティストを相互に派遣し、各施設で約90日間の滞在制作を行っています。

台北市・横浜市アーティスト交流プログラム2024

鄭文豪(チェン・ウェンハオ) 「長壽/ Long Life」

日程 2025年3月20日(木/祝)~ 3月23日(日)
時間 13:00~18:00
場所 ExPLOT Studio
横浜市西区みなとみらい 4-3-1 PLOT48 テラス棟1F
入場無料

●オープニングレセプション
2025年3月19日(水)19:00~
参加費無料、予約不要



台北市と横浜市はパートナー都市として様々な分野で交流事業をおこなってきており、芸術分野では、2005年からTaipei/Treasure Hill Artist Village(台北国際芸術村)とBankART1929の間で毎年アーティストを相互に派遣し、各施設で約3ヶ月の滞在制作をおこなってきています。2024年度は、台北市からチェン・ウェンハオ氏が2025年1月4日から3月31日まで横浜に滞在し、今回の展示でその成果を発表します。
※今年度の日本人作家の派遣については受入先の都合により、来年度に繰越しとなりました。



鄭文豪(チェン・ウェンハオ) 1994年、台湾・桃園生まれ。2023年、国立台北芸術大学美術学科修士課程修了。身の回りのものがもたらす感覚や、「拾い集める」行為に着目し、動力機械や映像などを組み合わせたインスタレーション作品を展開。日常生活に散りばめられた感覚や個人的な経験が織り交ぜられた作品には、「故障」というキーワードが浮かび上がる。作品を通じて鑑賞者の身体感覚を刺激し、多様な解釈の道筋を生み出す。作品制作を通じて、鄭は独自の美学である「鄭氏動力学」の世界を描き出そうとしている。主な展覧会歴として、台北市立美術館「台北美術賞」(台湾、2022)、新板芸廊「冶煉是水氣」(台湾、2022)、韓国 111CM「水原国際芸術祭」(韓国、2022)、水谷藝術「震盪之前」(台湾、2022)、覓計画「飛揚土製造」(台湾、2019)などがある。
Website: https://wenhaozheng.cargo.site/


このプロジェクトは、私の家族がパーキンソン病を患った経験から生まれました。介護をする中で、私は「老いと身体機能の衰えの関係」に意識が向かうようになり、「身体の機能を失うことは、故障と同じなのだろうか?」という問いが頭を巡り続けました。
横浜でのアーティスト・イン・レジデンスの期間、この問いの思考を深めるため、介護を受ける本人やその家族、介護施設のスタッフにインタビューを行い、それぞれの経験を記録しました。そして、それらの個別の体験を再構成し、創作の可能性へとつなげていきました。
この問いに対する答えを探る中で、「身体の失能」と「機械の故障」との関係について考えるようになりました。確かに、人は老いるにつれて記憶力の低下や視力の衰え、関節の摩耗による動作の不自由さなど、さまざまな身体・精神的な変化を経験します。その意味では、身体の機能が低下することは、機械の故障と似た側面を持つかもしれません。しかし、両者は本質的に同じではなく、最大の違いは「修復の可能性」にあると考えています。機械の故障は修理や部品交換によって元の状態に戻せることが多いですが、人の身体機能の衰えは基本的に不可逆的なものです。
私がこの「身体の機能を失うことは、故障と同じなのだろうか?」という問いを立てた理由のひとつは、衰えによって日常的な動作が困難になっていく高齢者の姿を見たことでした。もうひとつの理由は、私の作品がしばしば「機械の動力」を扱う点にあります。私の機械的な装置は、しばしば「自壊」や「消滅」の要素を持ち、それらが徐々に壊れていく様子が作品の一部となっています。そのため、「故障」という概念をどのように表現するかを考えることは、私の制作において重要なテーマになりました。
この問いを持ち始めてから半年が経ちましたが、いまだに明確な答えを見つけるには至っていません。しかし、研究やインタビューを重ねる中で気づいたのは、介護を受ける人も、その家族や介護者も、誰もが「時間の流れに抗おう」としているということでした。衰えを受け入れるか、あるいは抗おうとするか――いずれにしても、そこには単なる「機能の喪失」として片付けられない、能動的な姿勢や感情が存在していました。
この発見をもとに、今回の展示では「身体機能の衰え=故障」という単純な図式ではなく、困難に直面しながらも前向きに生きる姿勢や、衰えに抵抗しようとする人々の意識を表現することを目指しました。私は、既存の物と機械動力を組み合わせ、そこに生まれるわずかな動き、消えゆく物質、鈍く流れる時間感覚を通じて、「時間に抗うことはできるのか?」という問いを探求しています。
これは、「生命が時間の存在をどう捉え直すのか」を考える試みであり、私の思索の旅のひとつの節目となるはずです。
たとえ老いの歩みを止められなくとも、私たちはその足取りをわずかでも遅らせようとし、時間に抗おうとするのです。
鄭文豪(チェン・ウェンハオ)

横浜台北交流事業 アーカイヴ