【アートラーニング・インタビュー #14】BankART Life7 参加アーティスト・三田村光土里 by BankART実験広報部

こんにちは、BankART実験広報部の中村です!
今回はLife7に作品を展示されている三田村光土里さんにインタビューさせていただきました。

簡素な木枠にかかっている横浜の景色がプリントされた大きな布は、どれも素敵な色味とイラストで斬新なデザインが施されています。三田村さんが今回の作品を制作するに至った経緯や、普段の制作時に大切にされていることについて聞いてみましょう!

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__今回のコンセプトや狙いについてお伺いしてもいいですか?

三田村:今回はnäkö(ナコ)という新しいファブリックブランドを作りました。私なりにデザインした横浜の景色をファブリックにプリントして、さらにそれを来場者の人が買って帰れるというものです。今回この布地はバッグにもなっているんですけど、旅の景色を持ち帰れるというコンセプトで、ファブリックブランドとしての作品を制作して展示しています。


__今回のための、新しいファブリックブランドなんですね!なにかきっかけなどはありますか?

三田村:きっかけとなったのが、2022年に開催された瀬戸内国際芸術祭です。女木島というところで小さなお店プロジェクト(現:女木島名店街)という芸術祭のプロジェクトで、私は女木島に因んで MEGIFabというブランドを立ち上げたんです。
私は元々アパレルデザイナーでもあって、アートよりももっと前から布などの身につけられる物や手に取れる物の生産に携わってきたんです。今は写真を基点に制作を行なっているんですけど、今やっているアートとこれまで過去に携わってきた布製品というのが自分の中で自然に融合したんです。この風光明媚な場所である女木島の景色を買って帰れる。私の視点と来場者の視点が一致するような、そういうプロジェクトを始めたので、それが女木島だけでなくいろんな場所で展開していきたいなと思ったんです。今回横浜でnäköというブランドを作ったのが、その第1弾です。


__näköという言葉は、フィンランド語なんですよね?

三田村:そうですね。フィンランドは2005年に1年間写真を使ったインスタレーションの巡回個展を行なったこともあって、自分にとって馴染みのある場所なんです。それに、näköって文字の響きも見た目も可愛くって。それがとても気に入っています。


__näköの意味は視界やヴィジョンとのことですが、どのような想いを込められているのでしょうか?

三田村:通常旅に出ると写真を撮るじゃないですか。スマホやデータとか、昔ながらの形だと絵葉書とか、そういう形にして持って帰る。でもその写真が日常の中で使える布製品になっていたらなんか楽しいんじゃないかと思ったんです。
日常使いすることでいつでも思い出せるようにということ以外にも、心から欲しいと思ってもらえるようなデザイン性を意識してつくっています。


__芸術の中に日常を含ませる、芸術を持って帰って日常で共有する、という感じでしょうか。今回に限らず、普段の作品を通して伝えたいのはどんなことですか?

三田村:私の作品のつくり方っていうのは、世界と私自身の間にある繋がっている部分を通して世の中を見ていきたいというか。日常的な気づきとか人との関わりとか、経験とか。そういった視点を作品の中に反映していきたいという思いでつくっています。


__タイトルが詩的だったり、文章だったりすることが多いですよね。そのおかげか伝えたい想いや意味などが自分の中にスッと入ってくるものが多いんですけど、タイトルにも反映させていますか?

三田村:私の作品のキャッチフレーズが「人が足を踏み入れられるドラマ」という言葉なんですけど、それぞれの日常がドラマのような、一人一人にとって私小説的なものであるような。そういう彩りみたいなのを作品の中にもタイトルにも反映できたらいいなと思っています。


__そうなんですね!今回も実際に作品の中に入って見に行けるような構造になっていますよね。今回のこの形は道をイメージしているのでしょうか?

三田村:道というよりも部屋ですね。この木のフレームは私のインスタレーション作品の中でたびたび登場するんですけれども、空間の中にもうひとつまた空間をつくるというイメージなんです。なので私の作品の中に共通しているのは、常に部屋であったり家であったり、何かそういったイメージを感じられるような空間になっているんじゃないかなと思います。


__今回の作品に使われているものは、写真であったり布であったり、どれも日常的に目にしたり手に取ったりするものが多いですよね。さらにそれらが部屋の中にある。要素全てが日常にあるものなのに、どこか非日常を感じるのですが、それは何故なのでしょうか?

三田村:するどいですね。日常的なんだけど何故かちょっと違う、この非日常感を感じさせるという表現の仕方が好きなんですね。子供の頃にシュルレアリスムの絵に影響を受けたというのもあるんですけど、一見普通なんだけどちょっとなんか表情が違うとか、ちょっと何かズレている、そういう表現の仕方が好きです。


__子供の頃から絵などに触れる機会が多かったんですね。初めはアパレルデザイナーとして仕事されていたとのことですが、アーティストとして活動され始めたのはいつからですか?

三田村:1993年の終わりから制作し始めてます。本格的な個展をやったのは1996年からです。突然始めたんですよ(笑)。子供の頃に絵を見たというのも、家にあった本を繰り返し見ていたというだけで。実は学生の時から趣味で写真をやっていたんです、廃墟を撮るのが好きで。デザイナーとして社会人になった後も、その傍らで写真スクールに通ってプリントとか現像を学んで、尚且つ同時に現代アートの作家たちと交流を持つようになって、そこを入り口にアートに触れ始めました。


__だから今回も写真を撮る、思い出として形に残す、ということがテーマの中で大切にされているんですね。今回のものも写真は三田村さんが撮影されたとのことですが、今回販売しているバッグもご自分で縫われたのですか?

三田村:私は撮影とデザインだけで、縫わないんです。瀬戸内国際芸術祭の時に女木島のMEGIFabを高松の地元の方に縫っていただいて、今回もその延長で同じ方に縫っていただきました。



__三田村さんにとって都市とはどういうものでしょう?

三田村:文化の中心でもあるし、文化の入り口でもあるのでしょうか。人が集まるところで、古くは文明が栄えるところ。水があるところ。川や海が、そういうのがあるところに都市ができるのかな、と思います。例えば海外のいろいろな都市に仕事で行ってアートセンターとか美術館に行くと、水辺があって川や運河や海があるんですよ。なので私の中で都市は水がある場所、というイメージですね。


__横浜にも海がありますね!今回や普段の展示、作品などで水に影響を受けているなと感じることはありますか?

三田村:そうですね、地方であってもやっぱり水辺には都市があるなというのを最近よく感じます。
今回の作品には直接的な影響はないですが、旅先で写真を撮る際には水辺で人を撮影することが多いです。水をテーマにした写真展をしたことがあるくらい、私にとって水は写真に撮りやすいものですね。ただ、水の写真を撮っているわけではなくて、水辺に人がいる光景を撮りやすいのかもしれないです。そこに人がいる、ということが大事なのかな。
今回も海の写真はもちろん色々な横浜の街の風景の写真がありますけど、その構図の中に人を入れる、というのが私の中での横浜の表現です。


__今回の撮影にはどれくらいの時間をかけたのでしょうか?

三田村:生活をする、ということの中から発想して制作をしてというのを重ねているので、この横浜の風景も丸4日間、毎日横浜を歩き続けて撮影しました。自分自身が街に入り込んで何度も何度も同じところを行き来して、そうして自分にとって景色が自然になったタイミングで徐々に見えてくるものを撮っているので、割と時間はかかっています。


__じゃあこの写真に写っている方々は、この撮影のために用意されたモデルさんとかではないのですか?

三田村:そうですね、その日たまたまその場にいた人なんです。
不思議なんですけど、何故か今回の写真も以前のものも、なんとなくレトロな雰囲気にできあがっちゃうんですよ。この女の子も今年(2024年)の1月に撮影しているのに、場所といい女の子といい、昭和の私自身が子供の頃のイメージをこの中にキャッチしようとしているのかなと。この氷川丸もそうですけど、全体的に私の中でどこかそういう昭和の自分が幼少期だった時の何か空気感を見出してしまうことがあります。だからみんなによく「これは今年の写真です」と伝えているんです(笑)。


__白黒の影響もあるのかもしれないですけど、日常がギュッとその瞬間に止まってしまったかのように見えますね。ちょっとこれがカラーになったところを想像してみると、パアッと今にも動き出しそうな雰囲気があると感じます。

三田村:そうかもしれないですね。……この人たちは今、どうしているんでしょうね。


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お話を伺っているその瞬間も、三田村さんの日常の一部にお邪魔させていただいているような、そんな記憶の中に残しておきたい特別な時間になりました。
本展覧会では、三田村さんがお話ししてくださったように展示しているファブリックやバッグを実際にショップコーナーで販売しています。興味のある方はぜひお手に取ってみてください!✨

BankART Life7は6月9日までBankART Station(+他周辺各所)にて開催中です。
本展覧会のチケットはパスポート制となっていますので、ブログを見て「このインタビューを踏まえてもう一度作品が見たい!」と感じた際にはぜひまたお越しください👣

また、三田村さんは今年の秋ごろにも作品展を予定されているとのことです!三田村光土里さん、ありがとうございました。