BankARTschool・秋元康幸「横浜・都市デザイン列伝」

2021年9月9日〜1028

秋元康幸氏は、1980年に横浜市役所入庁以来、都市デザイン室室長などを務められ、横浜のまちづくりに長らく従事していた人物である。同氏によるゼミ「横浜・都市デザイン列伝」が、BankART Stationにて、9月9日から10月28日の8回連続講座で開講された。

本ゼミは横浜の都市デザインを牽引してきた「人物」に焦点を充てた講座であった。六大事業提言から推進まで行った浅田孝氏。その浅田氏からプロジェクトを引継ぎ、六大事業を実践していった田村明氏。地域と連携しながらまちづくりを進めていった国吉直行氏。本格的に横浜で都市デザインを推し進めていった岩崎俊介氏。国吉氏と岩崎氏は、実際に会場に出向き、年齢を感じさせない力強い講義をされた。そして、最後は歴史を生かしたまちづくりや創造都市を推進した北沢猛氏。

最終回では、全員の参加者が横浜や都市デザインの未来、ゼミの感想など一人一言。講義自体は終了予定時間を超え、最後まで盛り上がりのあるゼミとなった。さらに、終わった後も多くの人が残り、それぞれ参加者たちと懇談を楽しんでいた様子であった。

「人物」に焦点をあてて展開されてきた「横浜・都市デザイン列伝」 。歴史的文脈の中で、横浜の都市デザインを捉えることができるゼミであった。

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秋元康幸(元・横浜市都市整備局デザイン室室長)

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鈴木伸治(横浜市立大学教授)

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加川 浩(元・環境開発センター所員)

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田口俊夫(NPO法人田村明記念・まちづくり研究会 副理事長)

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国吉直行(元・横浜市都市整備局部長上席調査役・エグザクティブアーバンデザイナー)

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堀 勇良(元・文化庁主任文化財調査官)

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岩崎駿介(初代 横浜市アーバンデザインチーム長)

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神部 浩(横浜市文化観光局局長)

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マスキングテープのアート

マスキングテープは、ペンキを塗るときに、塗面の端がはみださないよういエッジを決めたり、ポスターなどをはるときに、仮ドメにしたりするのが通常の使い方だ。今回、BankART KAIKO(ギャラリー)で展開されている展覧会は、まったくその逆で、マスキングテープそのものが主体で、それをひとつの絵の具として、自由に絵を描くという試みだ。会場には、多様な作家の色彩豊な絵画(ドローイング)が、奔放に展開されている。
この技法を成りたたせているのは、カモ井加工紙株式会社という岡山倉敷にあるマスキングテープのメーカーだ。もともと絵を描く為にこれほど多くの色や柄のマスキングテープを開発したとは思えないが、とにかく、これ以上はできないというほど、模様のはいったマスキングテープが会場に並ぶ。通常、最後には廃棄されるマスキングが、展覧会のメインに位置し、その豊かさが、見る人を楽しませてくれる。

テープの仮設性も重要なエレメントだろう。馬車道駅2F壁面に突然登場した浅井裕介さんのドローイングは、ある意味では、落書きともいえるが、その仮設性故に、駅の管理者、道いく人に安心感を与え、公共の場につかのまの豊かな空間が存在する事の意味を教えてくれる。

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BankART出版紹介 vol.3 『横濱写真館』

2004年にBankART1929YokohamaBankART1929馬車道で開催された展覧会「横濱写真館」のカタログである。
本展は、旧銀行であった歴史的建造物の全室を使用し、第一線で活躍する写真家たちの作品が展示された。作家には、石内都氏や宮本隆司氏、小山穂太郎氏、鈴木理策氏、山崎博氏、北島敬三氏、楢橋朝子氏、佐藤時啓氏、森山大道氏など錚々たる顔ぶれが。この面々が一堂に会しただけでも迫力があるが、今回は各作家に新進気鋭の若手作家を推薦してもらい、新旧入り混じる総勢19人の参加となった。
さらに、従来のホワイトキューブではなく旧銀行という特異な空間で展示されたのだから、またとない機会だっただろう。
作家たちがどんな作品を展示していたのか気になる方はぜひ本カタログを手に取っていただきたいが、ここでは石内都氏の作品を少しだけご紹介。

横濱の本牧の接収地に建設された米軍居住施設「ベイサイド・コート」。石内氏は、この朽ちていく建物の写真と傷跡の写真を同時に展示。二項対立を表現することで、目に見えない「時間」と「空間」への意識を促した。

写真家の視線を通して、横濱や日本を改めて見てみてはどうだろうか。

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横濱写真館(2004年10月発行)
A5判 127ページ
1,572円(税込)
購入希望はホームページをご覧ください。

#横濱写真館 #BankART1929 #BankART出版 #横浜 #creativecity #artbook #art

BankART school 村田 真「パブリックアート再考」まとめ

2021年9月10日〜10月22日

2021年9月、コロナのため長らく休校していたBankARTスクールが1年半ぶりにスタート。バブルの時代から全国に林立し始めたパブリックアート。最盛期は過ぎたが、いまだに少しずつ増えている。ここ横浜みなとみらいエリアでも、ビルが竣工するたびに挿入さえ、70点近くの作品がある。

なぜ、今パブリックアートに注目するかというと、2020-21年コロナによる緊急事態宣言時、全国の美術館が長期休館という事態が起こったのも記憶に新しい。そんな中、もっとも三密でないパブリックアートは、新型コロナ時代にこそ有効性を発揮できるメディアと言えるからだと村田氏は述べた。本講座では、パブリックアートを美術史に沿って誕生までの変遷を、資料を見ながら解説していただいた。実際にもファーレ立川やみなとみらいエリアの作品たちを見学し、学びの多い講座となった。

分断されつつあるこの世界で、距離を保ちながらつながり、連帯できる「公の芸術」とはなんだろうか。そんな村田氏の問いかけもあったが、素材や形態に安全性が強く求められ、誰もが傷つかない表現など何かと制限の多い現状のパブリックアート。これまでとは異なるアップデートが求められている

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みなとみらい21エリアパブリックアートツアー見学会の様子

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【講座内容まとめ】

前半は、パブリックアートが日本に生まれた時代背景を石仏時代から遡り、同じく欧米の歴史と日本への影響なども解説いただいた。第2次大戦後からバブル期までは、政治・軍事色が一掃され、裸体像から抽象まで多彩な「野外彫刻」が多かったが、バブル以降開発地域に合わせて計画的に設置する「パブリックアート」が登場。代表例として、1990年代に竣工したファーレ立川、新宿アイランドなど。

後半は、パブリックアート後について。ヨーゼフ・ボイスの社会彫刻、その影響を受けたカスバー・ケーニヒの「ミュンスター彫刻プロジェクト」、ヤン・フートの「シャンブル・ダミ」やその後継者による「トラック」、クリスト&ジャンヌ・クロードの梱包芸術、川俣正のインスタレーションなど、パブリックアートとは一線を画しながらも、パブリックアートに影響を与え概念を拡張してきた事例について。さらに国際展と芸術祭、ソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)についても流れに沿って紹介。また2000年代になり、街おこしの一環で漫画・アニメ・タレント像が増加した動き、近年問題になっているホームレスが寝そべったり滞在したりしないよう加工をしたベンチなどの「排除アート」も網羅的に紹介していただいた。

最終回は、横浜のパブリックアートについて。特記として2000年以降、みなとみらい地区を除き大規模開発は一段落し、横浜トリエンナーレ、BankART1929開設、黄金町バザールなどソフト路線になっていることなどを紹介。恒久設置のパブリックアートとはまた別の、柔軟性のあるアートの方向性にあり、「パブリック」と「アート」を考えるヒントになると結んだ。

Creative walkway アートと食と街  食と現代美術vol.8 第3弾

BankART KAIKOとBankART Station で 10/19まで開催中!

村田峰紀

voice( 素材 木炭、ジェッソ) 木炭をマイクに見立て無言の声でロックを唄う

撮影:杉本 篤

self(素材 鉛筆HB)口の中に入れると冷たく、かたく、苦い。まずい。病院の匂いがした。私の口から全てを吐き出そうと一生懸命になった。今とても不快である。

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熊澤桂子

不揃いの人参たち。ここに登場する人参は、通常収穫の際にはねられる、市場には通常でてこない農作物である。彼女は、こうした人参をどこから手に入れ、ガラスで型取り、FIXしてしまう。できあがったガラス製の人参は「かたちのととのった商品としての人参」からははるか遠いところに位置し、野生の人参の自由な生き様をみせてくれる。

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井原宏蕗

ペットフードで動物の形を造り、そのまま燃やして、金属へと置き換えた作品。

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橋本康ニ(フルコース映像作品/2010年)

「食と現代美術vo.l.6」のテーマはフルコース料理。このプログラムを橋本康ニさんが、youtubeにアップしてくれている。

フルコースというと、通常テーブルで待っていると、前菜からはじまり、メイン、デザート迄料理を順番に運んでもらう贅沢な食事のとり方をイメージするが、このフルコースは全く仕組みが異なる。ひとことでいうと、街の中に用意された場所を一品づつ食するために、こちらから尋ねていくプログラムなのだ。BankART Studio NYK カフェからスタートして、BankART入口部の木村崇人氏企画の出前調理人シリーズの電流料理。街中にでて、白井美穂氏が演出したギャラリーを変形した思想家喫茶、メニューには毛沢東とか、レーニンとか大物の名前が並ぶ。さらに進むと、野毛ゾーン(横浜の大きな飲食街)で鎮座する三宅航太郎氏が扮する占い師。鯨を食べれる店を占ってくれ、お店を案内してくれる。松田直樹氏のお米でできた調度品からなる部屋では、実際のご飯をパックにもらいうけ、その後、一般の家庭が提供してくれるおかずをもらいに家を尋ね、昼食をとる。最後は大岡川沿いの桜の木が満開の中、桜餅を提供してくれる開発好明作の発泡スチロールカフェへ。てな具合で、参加する人は、食を楽しみながら横浜の様々な街を巡る事になる。

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片岡純也

20歳の頃ペリエが天然の炭酸水と知り、なんて素敵な水だろうと思った。フランスパンはフランスではバゲットという。焼きたてのバゲットは柔らかく香ばしくパリの石畳の街路でかぶりついた。次の日にはパンはカチカチに硬くなり作品のパーツになりそうだと着想した。ペリエとフランスパン、見ると心が浮き食べるとその頃を思い出す。バゲットの凹凸にあわせてLED が上下し、光がペリエの瓶を通してゆらゆら揺れる。

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【展覧会情報】

食と現代美術vol.8「アートと食と街」
2021年10月1日[金]~19日[火] 11:00~19:00
料金:¥900(中学生以下及び、障がい者手帳お持ちの方と付き添い1名は無料)
会場:BankART KAIKO(馬車道)、BankART Station(新高島)、新高島駅構内B1Fの歩道部分壁面

http://www.bankart1929.com/bank2020/news/21_029.html

Creative walkway アートと食と街  食と現代美術vol.8 第2弾

BankART KAIKOとBankART Station で 10/19まで開催中!

札本彩子
脳や心臓などの人間の器官を食べ物に見立てたシリーズ。
モシャス:不意に、日用品や道端に落ちている瓦礫の破片などが、食べ物に見える瞬間があります。そこから膨らませたのがこのモシャスシリーズです。対になった造形は、リアルとフェイクを錯綜させながら、見慣れた風景に仕掛けた罠のように佇んでいます。

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自転車部(部長:KOSUGE1-16 土谷)
かき氷自転車。タイトルの通り、自転車をこいで、かき氷をつくるという単純な作品である。今回の食と現代美術は10月開催なので、既にかき氷の季節ではないが、夏休みらしい夏休みがなかったのだから、ちょっと寒くっても子どもたちには、コロナには十分気をつけて、うんと楽しんでほしい。

山本アンディ彩果
砂糖漬けという手法で作品をつくり始めたきっかけは、認知症の祖父との二人暮らしだった。一瞬前の出来事ですらすぐに忘れてしまう祖父を前に、記憶が消えたり曖昧になることによって私たちの記憶がフィクションになっていくように思えた。この事からおとぎ話(=フィクション)の本を砂糖漬けにしていく作品『エターナル・ストーリー』の制作をはじめた。果物などを美しいままに保存する砂糖漬けという技法は、失ってゆく記憶をとどめようとする行為と似ている。

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松田直樹
お米でできたエプロンはビーズでつくったようなおしゃれで高貴な作品。テーブルの上の作品は、妊娠中の奥さんのおなかを型どったもの。

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松本秋則
朝、昼、晩にお菓子を食べ続けた、Super Size Meもどきである。そうだ!私はお菓子を食べるためにお菓子を買ったのでは無い、楽器を作るためだ。お菓子箱を押してみてくれ、RITZ、きのこの山、Ghana、パイの実、ALMOND、でどんな音楽が出来た?

【展覧会情報】

食と現代美術vol.8「アートと食と街」
2021年10月1日[金]~19日[火] 11:00~19:00
料金:¥900(中学生以下及び、障がい者手帳お持ちの方と付き添い1名は無料)
会場:BankART KAIKO(馬車道)、BankART Station(新高島)、新高島駅構内B1Fの歩道部分壁面

http://www.bankart1929.com/bank2020/news/21_029.html

Creative walkway アートと食と街 食と現代美術vol.8スタート!

2021年10月1日〜19日

@ BankART KAIKO+BankART Station(新高島)+新高島駅構内B1Fの歩道部分壁面

食と現代美術vol.8がはじまった。食と現代美術はBankART1929がスタートしてから、これまで7回開催してきている。ギャラリー内だけで開催したもの、街中のお店等と連携したもの、ギャラリー空間を本物のレストランのように仕上げて料理を振る舞ったもの等々、様々な方法で「食」と「美術」にアプローチしてきてきた。

チラシにも記したが、今回の食と現代美術は、北仲地区、新高島地区に新しく誕生する食文化(街)と連携する計画を立て、具体的に店舗と打ち合せも行っていたが、継続された非常事態宣言は、そういった試みは許してくれなかった。残念ながら、BankART KAIKOBankART Station二館だけの催しになった。

とはいえ、参加作家は皆、工夫を重ね、興味深い作品を提案してくれた。少し紹介しよう。

北風総貴氏(ヤング荘)は、これまで食と現代美術全展覧会のグラフィックを提供してくれている。通常はチラシやポスターのベースになるものだが、今回はポンジクロスで大きく引き延ばしてみた。ご覧あれ!

開発好明氏の作品は、卓球台をコーヒカップとみたてて、試合をすることでコーヒー&ミルクが混ざり合うのを楽しむプログラム。通常はコーヒーカップの中でくり拡げられるささやかな営みが、公の空間で観客に見られながら展開されていく。オンザテーブル混在のプロジェクトは、地球上でおこっている様々な溶融を隠喩させる。

武藤 勇+君塚史高+加藤良将+札本彩子は、横浜の片隅でポップコーンを中心に愛をささやくというタイトルの作品。トウモロコシのはいった釜に向かって愛の言葉をささやき続けると、釜の温度があがり、「ハイ、一丁上がりのポップコーン」。

牛島智子氏は、次のような作品。(作家言より)

「糖の作り方を書いた本からイメージを得て、『サトウキビを絞る牛』という展示を行った。父は農耕牛が2頭いたという。その牛が引いたであろう鋤が納屋根裏にホコリをかぶって何十年もぶら下がっていたので、今がその時と補助ロープをつけて縄を解き燭台に仕立てた。ズッシリと重い。後略」

祐源紘史氏のケンタッキーフライドチキンの骨で作成した骸骨は、ごく普通のフィギアにみえてしまうので、特別な印象はうけない。ただ、私たちが食したチキンが、私たちの骨格を構成し、「生かしてもらっている」という関係をあっけらかんと表現しているのに気づかされる。

「絵画に現れる食のイコン」を村田真氏に再トライしてもらった.ダビンチ、フェルメールなど含む、有名な古典絵画53点を60mに及ぶ大壁面に展示。最後の晩餐等の特大サイズを除き、ほぼ原寸大でプリント再現した。村田氏のコンパクトな紹介文が的確でみずみずしい。(後日、続編記載予定)

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