BankART school 村田 真「パブリックアート再考」まとめ

2021年9月10日〜10月22日

2021年9月、コロナのため長らく休校していたBankARTスクールが1年半ぶりにスタート。バブルの時代から全国に林立し始めたパブリックアート。最盛期は過ぎたが、いまだに少しずつ増えている。ここ横浜みなとみらいエリアでも、ビルが竣工するたびに挿入さえ、70点近くの作品がある。

なぜ、今パブリックアートに注目するかというと、2020-21年コロナによる緊急事態宣言時、全国の美術館が長期休館という事態が起こったのも記憶に新しい。そんな中、もっとも三密でないパブリックアートは、新型コロナ時代にこそ有効性を発揮できるメディアと言えるからだと村田氏は述べた。本講座では、パブリックアートを美術史に沿って誕生までの変遷を、資料を見ながら解説していただいた。実際にもファーレ立川やみなとみらいエリアの作品たちを見学し、学びの多い講座となった。

分断されつつあるこの世界で、距離を保ちながらつながり、連帯できる「公の芸術」とはなんだろうか。そんな村田氏の問いかけもあったが、素材や形態に安全性が強く求められ、誰もが傷つかない表現など何かと制限の多い現状のパブリックアート。これまでとは異なるアップデートが求められている

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みなとみらい21エリアパブリックアートツアー見学会の様子

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【講座内容まとめ】

前半は、パブリックアートが日本に生まれた時代背景を石仏時代から遡り、同じく欧米の歴史と日本への影響なども解説いただいた。第2次大戦後からバブル期までは、政治・軍事色が一掃され、裸体像から抽象まで多彩な「野外彫刻」が多かったが、バブル以降開発地域に合わせて計画的に設置する「パブリックアート」が登場。代表例として、1990年代に竣工したファーレ立川、新宿アイランドなど。

後半は、パブリックアート後について。ヨーゼフ・ボイスの社会彫刻、その影響を受けたカスバー・ケーニヒの「ミュンスター彫刻プロジェクト」、ヤン・フートの「シャンブル・ダミ」やその後継者による「トラック」、クリスト&ジャンヌ・クロードの梱包芸術、川俣正のインスタレーションなど、パブリックアートとは一線を画しながらも、パブリックアートに影響を与え概念を拡張してきた事例について。さらに国際展と芸術祭、ソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)についても流れに沿って紹介。また2000年代になり、街おこしの一環で漫画・アニメ・タレント像が増加した動き、近年問題になっているホームレスが寝そべったり滞在したりしないよう加工をしたベンチなどの「排除アート」も網羅的に紹介していただいた。

最終回は、横浜のパブリックアートについて。特記として2000年以降、みなとみらい地区を除き大規模開発は一段落し、横浜トリエンナーレ、BankART1929開設、黄金町バザールなどソフト路線になっていることなどを紹介。恒久設置のパブリックアートとはまた別の、柔軟性のあるアートの方向性にあり、「パブリック」と「アート」を考えるヒントになると結んだ。