これ以上のことはできない、と思って取り組んでもうまくいかない場合はある。原口典之展を超えなければいけない。
客が増えない。こんな年末の雨の中で、やはりこんな展覧会をみてくれという方がおかしいのか?
どうか全ての建築家に見て欲しい。
どうか全ての美術家に見て欲しい。
どうか全てのパフォーマーに見て欲しい。
どうか全ての行政マンに見て欲しい。
そして、少数でもいいから市井の人たちも反応して欲しい。
川俣正は昭和28年に生まれている。吉本隆明の「転位のための十篇」が発表された年だ。
「ひとつの直接性」は今年3月16日にたおれた。
だからこそ今この時代の「ひとつの直接性」に関わって欲しい。
【ちいさな群への挨拶】
あたたかい風とあたたかい家とはたいせつだ
冬の背中からぼくをこごえさせるから
冬の真むかうへでてゆくために
ぼくはちいさな微温をたちきる
おわりのない鎖 そのなかのひとつひとつの貌をわすれる(略)
ちいさなやさしい群よ
昨日までかなしかった
昨日までうれしかったひとびとよ
冬はふたつの極からぼくたちを緊めあげる
そうしてまだ生れないぼくたちの子供をけっして生れないようにする(略)
ぼくはでてゆく
冬の圧力の真むこうへ
ひとりっきりで耐えられないから
たくさんのひとと手をつなぐというのは嘘だから
ひとりっきりで抗争できないから
たくさんのひとと手をつなぐというのは卑怯だから
ぼくはでてゆく
すべての時刻がむこうがわに加担しても
ぼくたちがしはらったものを
ずっと以前のぶんまでとりかえすために
すでにいらなくなったものにそれを思いしらせるために
ちいさなやさしい群よ
みんなは思い出のひとつひとつだ
ぼくはでてゆく
嫌悪のひとつひとつに出遇うために
ぼくはでてゆく
無数の敵のどまん中へ(略)
ぼくの孤独はほとんど極限に耐えられる
ぼくの肉体はほとんど苛酷に耐えられる
ぼくがたおれたらひとつの直接性がたおれる
もたれあうことをきらった反抗がたおれる
(略)
だから ちいさなやさしい群よ
みんなひとつひとつの貌よ
さようなら
「転位のための十篇」(昭和28)所収