BankART school 2024 7-9月期 岩渕潤子 「今振り返る1980年代のNYアートシーン」

7-9月期の講座は2つ開催されています。マルコス・フェルナンデスさんの「音の仕組み(How Sound Works)」と今回紹介する岩渕潤子さんの「今振り返る1980年代のNYアートシーン」です。

80年代、個人的には79年あたりの日本のパンク・ニューウェイヴやら、なんやらに興味を持っていた時代から、横浜博覧会YES89が開催されたあたりでしょうか。先般のトリエンナーレの際にリニューアル公開された横浜美術館も89年開館です。世界も日本もなんだか勢いのあった時代かもしれません。

今回の講座では、その80年代を彩った、印象深いアーティストを取り上げながら、その時代や、自身の体験も交え、様々な映像と共に紹介、検証していきます。

取り上げているのは以下のアーティスト。これまでに5までが終了しています。

1 デイヴィッド・サーレ

2 キース・ヘリング

3 ロバート・メープルソープ

4 シンディ・シャーマン

5 バーバラ・クルーガーなど女性アーテォストの先駆け

6 トランス・アヴァンギャルディア

(エンゾ・クッキ、サンドロ・キア、フランチェスコ・クレメンテ)

7 ロバート・ロンゴ

8 ジャン・ミシェル・バスキア

アーティストだけでなく、活動した時代背景や雰囲気。音楽や当時のNYの状況など多様なお話と、あわせて参考に流す動画などで、イメージ豊かな時間となっています。

これまでに行われたものとして次のようなものがあります。

第1回はデイヴィッド・サーレ。

この「自分の作品を言葉巧みに説明できる」「いかにもちゃんと絵を描いているアーティストっぽいアーティスト」としてかっこよく象徴的であったということなどを、映像を見ながらお話がありました。なんとなく時代を感じる映像としては、ゴーストバスターズのトレーラーなどが流れました。NYでは、「作品を作り、それが評価され、高く売れる」といった状況があり、それを目指す若者が多かったこと、クラブなどの文化も盛んでもちろん刹那的なことも多く、ドラッグやその他の問題もあったが、そういったことも含めての魅力があり、集まる若者も多かった時代なのかもとのこと。NYはアートの集積が膨大で、見ることが出来るもの、教える人、その環境全てが高レベル、美術を勉強する人はNYに行くべき。サーレもそういう環境で、活躍した一人といえるのではとお話されていました。

第2回はキース・ヘリング、第3回はロバート・メイプルソープです。

2人ともAIDSで亡くなったアーティストとしての共通項はありますが、ヘリングが行動を通じて作品を生み出し続けたのに対し、メイプルソープは作品そのものを通じて本人の美意識を伝え続けた部分があり、アーティストとしてはかなり異なる部分があるというお話でした。

ヘリングはAIDSと戦い、社会的なメッセージを印象深い作品とともに伝え続けた人です。親しみやすい図案化されたテーマを用いた作品は、Tシャツなどの商業的な展開も多く、見たことがある人も多いと思います。地下鉄の黒い公告スペースにチョークで描かれた作品から始まり、とにかく精力的に行動して作品を描き続け、AIDSで無くなる直前までメッセージを発し続けました。

メイプルソープはその時代を象徴する写真家として活躍した人ですが、その美意識を共有する人も多かった反面、それを嫌う人も多いところがあり、男性ヌードシリーズなどの作品から、同性愛的な指向として扱われあまり歓迎されてなかったことなども紹介されました。

今回の講義の中では、岩渕さん自身のNYでの経験、その他が語られることも多いのですが、そこに垣間見られるその時代の様子などとても面白いものでした。(表現に関しての田中眠さんとのエピソードは特に。)NYの話ではありませんが、日本でも美術の表現や、わいせつの概念などについてもお話があり、いろいろな観点から「表現」について、考えさせられるものとなりました。

メイプルソープの回では、M.I.B.の一場面(ウォーホルのパーティの場面)などが、とっても細かいところまで再現されていて、当時の雰囲気をよくしることができると紹介され、その時代の空気を感じるものとしてGrace Jones の I’ve Seen That Face BeforeのMVなど聴きながら進められていました。

各回の講義では、NYの空気感を感じるものとして、様々な映像が引用されます。何が引用されるのかも毎回楽しみです。今後も興味深いお話を伺う事が出来そうです。

BankART school 2024 7-9月期 マルコス・フェルナンデス 「音の仕組み(How Sound Works)」

マルコス・フェルナンデス横顔

今回の講座は2つ。その一つは、横浜で生まれたサウンドアーティスト(これ以外にもいろいろなことをやっている)である、マルコス・フェルナンデスさんが講師を努める「音の仕組み(How Sound Works)」です。

マルコス・フェルナンデス横顔

音の性質、音響生態学、フィールドレコーディング、フォノグラフィーなど、主に私たちを取り巻く環境に存在する様々な音に関することから、電子音、音楽、そして楽器作りと即興まで様々な観点から全8回で「音」の仕組みをひもといていくものとなっています。

現在は半分をこえたところ。これまでの講義は、本当に私たちの周りに(そして普段の生活ではあまり意識を向けていない)音に焦点を当てたもので、時には、通路や周辺の空間の音を聴きに会場を出て歩き周り、様々音に耳を傾けたり、実際に参加者が興味を持った「音」を録音、それを題材に講義を進めるなど、「音」の持つ様々な魅力、その仕組みや楽曲を聴くだけではない、音の楽しみ方などに気づかせてくれる内容です。

前半は、音そのものの性質から始まり、サウンドスケープの話や、音響生態学、そして、進化してきた録音機器などの話も交えて、特に自然、あるいは都市の環境の中にある音が中心になっていたように感じます。改めて、サウンドスケープという概念の重要なことを認識した次第です。

フィールドレコーディングでは、実際にマルコスさんが録音している機材のことや、実際に録音した音を聴き、講義が進められました。紹介された、「洗濯機の音」、普段何度も洗濯をしているのですが、真正面から向き合うと、なかなかにストーリー性のある面白い音です。なんだか聞き入ってしまいました。録音機材もだいぶ進化して、昔はテープだったものが、デジタルになって高性能、手軽になっており、スマホのアプリでもかなりなものとなっていて、誰でもやってみることができる事になっています。

でも、マルコスさんは、DAT(digital audio tape)も未だに現役で愛用しているそうです。DATのレコーダー、久しぶりに目にしました。今使っているのはzoomのレコーダー。昔と違って録音しているのを悟られず、自然にとれるのがメリットとのことでした。

3回目の宿題は、それぞれが興味を持った音をスマホなどで録音してくること。4回目の講義では、それを題材になんの音か、どうしてそれに興味を持ったかなどを参加者それぞれに聞いていきました。

この時期だからだと思いますが、音に「蝉」の鳴き声が入っているものが多く、とても季節を感じるものになっていました。

残りもう少し。これからの講義も楽しみです。

ちょうど今回のschoolの会場となるBankART Stationでは、「島袋道浩:音楽が聞こえてきた SHIMABUKU:I Hear Music」と題した音や音楽に関連する作品で構成された展覧会を開催中。

様々な音の流れる、こちらの展覧会も是非お楽しみ下さい。