アート&デザインの街「ヨコハマポーサイド地区」は、街びらきから30年を迎えました。横浜駅至近に都心型住宅をメインとして約6500人が居住するこの街は、地区のあちこちにパブリックアートが設置され行き交う人々の目を楽しませ、街を貫く栄本町線は上部がスカイウェイ(ペデストリアンデッキ)でつながれ、安全と利便性を考慮したつくりになっています。古くからある公園に加え、再開に伴って新しく水際や地区内に設けられた公園も個性あふれるユニークなものです。そして、地区内の建物の独特な外観は「アート&デザインの街」を印象づけています。
「ヨコハマポートサイド地区開発イメージ図」横浜市都市整備局WEBから転載
2023年秋、アートイベント(主催:ヨコハマポートサイド地区街づくり協議会、運営協力:BankART1929)『食とアートと人と街』では、地区内と周辺店舗へご協力いただき、「食」をテーマとする作品を展示しました。 今回のトリエンナーレの連動企画として『BankART Life7』展を実施するにあたり、ご相談したところご快諾いただき再展示に至りました。同じ作品を継続して展示していただいた店舗では、すっかり馴染んだ感もあります。展示作品を一新したお店では、新しい驚きを訪れる方に与えてくれています。 5月11日に行われた「ヨコハマポートサイドで街とパブリックアートを巡るツアー」では、ツアーコンダクターのBankART1929細淵代表、秋元副代表と共に、ポートサイドの街を探訪しながらアート作品を巡りました。
地区のほぼ中央にあるエットーレ・ソットサス「The Family」の前で集合。簡単に近寄れるところに作品が置かれていることに驚かれた方もおられたようでした。
ここは、商住混在の市街地や倉庫・工場街の開発から取り残された地区であったこと。みなとみらい21地区と結ばれる都市計画道路「栄本町線」が整備されるのを契機として、新しい街づくりが始まったことなど、秋元副代表が地区の成り立ちを参加者に説明し、ツアーが始まりました。
さて「ポートサイド」の意味は「港の横、脇」ですが、これは実は船に由来した言葉でもあります。船舶の世界では、船の左側を「ポートサイド(port side)」、右側を「スターボードサイド(starboard side)」と呼びます。みなとみらい21地区を出港する船に見立て、その左側にあることを準えて「ヨコハマポートサイド地区」と銘々したとか。 昨年40周年を迎えたみなとみらい地区は、商業・業務が中心の街として計画されており、ポートサイド地区は住宅中心の街として、補完関係も成り立ちます。それをイメージして名付けされたということかもしれません。
作品の説明は、細淵代表が行います。 休業日のため店舗内を見ることは叶いませんでしたが、最初の作品は、
牛島達治「旋回石」@1960Restaurant
レストランの有名メニューのハンバーグそっくりの「旋回石」が、各テーブルに置かれています。調味料と並んで置かれている作品に触れてみてください。ゆっくりと旋回させながら、店主の自慢の肉料理をお待ちください。
ギャラリーロードを歩きながら、帷子川に面する水際のポーサイド公園に向かいます。ポートサイド公園は設計コンペで選ばれたデザインにより整備された公園です(1等作品 オンサイト計画設計事務所 長谷川浩己)。波をイメージさせる盛り上がる造作や水の浄化を意図してヨシ原の再現を試みるなど、2001年グッドデザイン賞を受賞しました。
ポートサイド公園からは、川越しに貨物線路が見えます。頻繁な運行ではありませんが、もちろん現役です。コンテナやタンクなどが連なって物流を支えているふ頭に運ばれる姿に出逢えた方はラッキーです。
こちらも休業日のため、店内展示は見られませんでしたが、
白井美穂「フラワーチャイルド-コスミコミックス」 「Book of Silence」@横浜ディスプレイミュージアム
横浜ディプレイミュージアムは、ポートサイド地区が街びらきした当初から店舗を開いています。お店向けのディスプレイ用品だけでなく、一般の方向けにも販売していて、フラワーアレンジメント講座などが人気です。今回の作品は店舗からの要請もあり、その豊富な品揃いの中から作家が選び出し作品としたものです。 外側のエントランスウインドでは休日や時間外も観覧できます。こちらは5月22日までの期間限定での観覧です。
ポートサイド地区では、住宅棟の下層部分にお店を配置することが約束されています。それぞれの建物では、デザイナーや建築家が外観に趣向を凝らしており、特徴的な造りとなています。説明者に促されて参加者も、建物を仰ぎ見ながら見比べていました。
ヤング荘「スナックフェンス」@ヨコハマサクラビル
こちらでは、作品「スナックフェンス」やパブリックアートにちなんだガチャが置かれています。建物の中にあるので、判らなかったという参加者もおられました。早速トライ!
建物の前のパブリックアートはハチの巣に見えませんか?
このビルのオーナーは蜂蜜を製造しているとある会社です。アートを単に設置するのではなく、作品選定時に話し合わせて決めています。「アート&デザインの街」の意味が伝わってくるパブリックアートです。
前面のギャラリーロードに、形も様々な大きな石が並べられています。これらの石がどこから運ばれてきたのかと首を傾げる参加者に、みなとみらいのランドマークタワーの足元にあるドックヤードガーデンを造った時、大きさを少し小さくした影響で、ドックの石が余ってしまったこと、その石を角を落とすなど手を加えて車止めに転用した由来を説明しました。みなとみらいとポートサイドの記憶を繋ぐ作品です。
ヤング荘「スナックフェンス」@宝町踏切付近屋外
作品の置かれているこの辺りは、道路が拡張される予定地です。まだある建物もいずれ撤去される予定です。作品設置によって、この場所の長年の不法占拠のイメージを払しょくする仕掛けとして期待されていることが説明された後、作品を出入りして誰でもマスターになってみました。そして夜には「スナックフェンス」の看板が灯ります。
ポートサイド地区から中央卸売市場方面に向かいます。昨年のアートイベントと同様に、ポートサイド地区だけでなくその周辺地区でも作品展示を展開しています。市場に関係する卸売りを営む店舗や関係者の飲食提供を行ってきたお店などに協力いただきました。
貨物線の踏切を超えて進みます。
蔵真墨「Photogram Works in Tsutakin Store」@蔦金商店
創業は明治27年(1894年)、120年の歴史ある海苔問屋での作品は、前回からの継続です。「海苔」を使った作品は店主も大変気に入ってくれているのですが、あまりに馴染んで目立たないのが残念と苦笑。
作家が使い慣れた韓国海苔と異なり、隙間がなく感光の効果が出にくい日本海苔での制作は大変苦労されたそうです。美しく風になびく羽衣のような陰影を見せる作品をじっくり見ながら、海苔の香ばしい香りも堪能してください。
村田真「上の空」@ガトーよこはま
島袋道浩「宇宙人とは接触しないほうがいい」@ガトーよこはま
前回に引き続き参加された店舗ですが展示作品は一新されました。また、店内作品だけでなく、屋外にも展示をしてほしいと店主からのご要望をいただき、今回の作品が制作されました。お店の中と外で二つの作品を鑑賞できますので、ゆっくり楽しんでください。
ガトーよこはまを出て左手を向くと、道路の向かい側の建物の壁一面に、作品が見えてきました。
光岡幸一「あっちかも」@つま正
この作品は前回から継続して展示しているので、ご存知の方も多いようでした。SNSや「ナニコレ珍百景」にも登場しています。建物の前面道路は、10月に行われている横浜マラソンのコースでもあり、選手の背景にこの作品が映って話題になりました。 作家は高所作業車でテープを貼りながら作品を描いたとのこと。足元や手元の不安定さに苦心した様が伝わってきませんか?
最奥となる展示場所に向かいます。綿花橋を渡って神奈川台場のすぐ傍にあるパン屋さんが会場です。神奈川台場は、横浜港防衛のために造られた施設で、開港の翌年から一年で完成しています。実戦に使用されることはなく、約40年にわたり、外国船舶を迎える際の外交儀礼上の祝砲や礼砲を発射するのに利用された平和的な台場でした。埋め立てにより全貌を見ることは叶いませんが、ほぼそのままの形で地中に現存していることが判ったそうです。 横浜の歴史を垣間見る貴重な場所も併せて、訪ねてみてください。
谷本真理@Ainomi Bakery
香ばしい焼き立てのパンの香りが漂うお店の一角に、作品は置かれています。こじんまりとしたお店に流れるゆったりとした時間を感じながら、少人数での鑑賞をお薦めします。
市場通りに戻って来ました。次に訪れるのは、創業110年超の老舗さんです。市場関係のには明治期創業のお店が多く営業を営んでいます。こちらは包装資材や食器などを扱う卸店舗です。
片岡純也+岩竹理恵「器と事象」@オリマツ
お店が扱う品物が、店舗のあちこちで動きを見せています。廻る縞模様の紙コップに見入って目が回りそうになったと笑う方やなにか懐かしい感じがする作品だと印象を持った参加者もおられました。これらの作品も、前回からの再展示です。すっかりお店の雰囲気に馴染んでいるようです。
牛島達治「旋回石」@1960coffee
ツアー当日お店は閉まっていました。不定休なのです。作品はレストランと同様です。壁際のカウンター席に置かれている作品は、ちょっと見つけづらいかもしれません。こちらのお店は店主からの要望をいただき、再展示が決まりました。
ポートサイド地区に戻って来ました。 現在、下水道工事のため半分が工事仮囲いで囲われている神奈川公園に向かいます。
キム・ガウン@神奈川公園
神奈川公園は、昭和5(1930)年に関東大震災の復興事業のひとつとして整備されました。 下水道工事が約8年間と長期間になること、その間殺風景な仮囲いはやめて欲しいとの地元からの要望を受けて、壁画制作を予定しています。 長い歴史があり、桜の名所としても有名な地域の方に愛されている公園での壁画であることを踏まえて、親しみをもって見ていただけるような作品の制作準備を進めています。
ヤング荘「スナックフェンス」@ヨコハマポートサイドビル
こちらにも、作品「スナックフェンス」やパブリックアートにちなんだガチャが置かれています。ポートサイド地区のロゴが印刷されたエントランスの足ふきマットにもご注目下さい。このロゴは地区内のマンホールや側溝の蓋にも使われていますので、探してみてください。
ツアーの最終地点は、ポートサイド地区のセンターに位置する象徴的なアトリウムがある横浜クリエーションスクエアです。
高橋士郎「自由の気膜」@横浜クリエーションスクエア・アトリウム
下寺孝典(TAIYA)「Land boat」@横浜クリエーションスクエア・アトリウム
ワークステーション+武蔵野美術大学建築学科高橋スタジオ「エンダイ」@横浜クリエーションスクエア・アトリウム
昨年秋は、壁面の改修工事と重なり大規模な展示が出来ませんでした。今回は、アトリウム全体で作品展開しています。 「自由の気膜」は、作品の動きに併せて、かくれんぼをしたり追いかけっこをしてみたりと、子どもたちにも人気です。「Land boat」と「エンダイ」は、パブリックアートテーブの作品です。アトリウムは平日にカフェが開かれますので、アートテーブルでお茶をどうぞ。
ツアーでは訪れませんでしたが、ほかに設置されている作品をご紹介し、三々五々解散となりました。
蓮輪友子@GRIN HOUSE Daily dining
前回から引き続きの参加です。作家は同じですが、お店の改修で壁が広くなり、展示場所も移動しました。作品もさらに見応えがあります。
淺井裕介「野生の水脈-抜け道の道しるべ」@横浜ベイクォーター 横浜梅やCHICKEN EVERYDAY Gooday Fresh Cafe tables cook & LIVING HOUSE niko and … (展示風景モニター設置のみ)
前回から継続して展示されている作品がご覧になれます。秋の展示からそのまま展示されているので、すっかりお店に馴染んだ様子です。
金曜日は、すべてのお店が営業していますので、ぜひまたポートサイド地区を訪れて、街とアートを楽しんでください。お店で飲食やお買い物をするとパスポートにスタンプを押してもらえます。スタンプを集めてBankARTのオリジナルグッブを入手してください。
※店舗の開店時間、休日など確認してお出かけ下さい。
写真 BankART1929 メディエーター グリフィス・キオ 文章・写真(横浜クリエーションスクエア・アトリウムのみ)BankART1929スタッフ 大蔭直子