【アートラーニング・インタビュー #9】BankART Life7 参加アーティスト・中谷ミチコ by BankART実験広報部

こんにちは、BankART実験広報部のJUNGです!

今回はBankART Life7期間中、ぷかりさん橋を舞台に展示している作家さんにインタビューさせていただきました!

コロナ禍の中で石川県珠洲市の住民達と協力し合ってつくられた、中谷ミチコさんの作品「すくう、すくう、すくう」を、リアリティを自分の元に手繰り寄せようとした話などを一緒に紹介していきたいと思います!

Q. 簡単な自己紹介からお願いします。

中谷: こんにちは、中谷ミチコです。彫刻家として活動しています。

Q. 普段どのような作品をつくっていますか?

中谷: 彫刻をつくっています。立体作品なんですが、2次元と3次元の間を行き来するような彫刻がつくりたいと思って制作しています。

Q. 今回の作品のコンセプトは何ですか?

中谷:この展示は、2021年に石川県珠洲市で開催された奥能登国際芸術祭で発表した作品の再構成です。当時はコロナ禍の真っ只中で、どのうようにすればリアリティを自分の元に手繰り寄せることができるか、考えながら制作した作品です。今回は6点の彫刻作品から構成されていますが、元は20点の彫刻で成り立っていました。展示場所になった飯田町の住民の方に協力していただいて、手の写真を送っていただきました。地域間の移動の自粛を求められていた時期だったので、現地に行ってリサーチするよりも、その方が自然に感じられたのです。水をすくう手のポーズをしてもらって、それを写真に撮っていただき、三重県の自宅の方に送っていただいたデータを元に粘土で形を作り、石膏で型取りして、その雌型に透明樹脂を流し込んであります。見る人は透明樹脂の内側から手の表側を見る形になっています。なかなか説明するのが難しいのですが、遠方に確実にいる誰かの手っていうものを、粘土で形作ることで自分の元に手繰り寄せて、それを反転させて彫刻作品にしました。

Q. 「水をすくう」手の形にした特別な理由はありますか

中谷: このタイトルが「すくう、すくう、すくう」というひらがなの三つの「すくう」が並んだタイトルになっています。一つ目のすくうが、水を「掬う」から来ています。二つ目のすくうが、何かを助ける救済の意味での「救う」で、三つ目が鳥の巣に食べるの「巣食う」。­コロナ禍で自分が感じていた色んな意味が反転するような、一つの音であるのに意味が変化し続ける、反転の意味が込められているタイトルです。コロナ禍によく手を洗ったんですね。手を洗う時、一番最初の水を掬う仕草、多分古代からおこなわれていた普遍的な仕草を現地の人達にそれぞれにしてもらうと、手の組み方はそれぞれ全然違っている。その違いの隅々を全部読み取りたかったんです。丁寧に遠方の他者の気配に接することができるような、沢山の意味が含まれている仕草をつくりたかった。

Q. 今回の作品を通じて観客に伝えたいメッセージがありますか?

中谷: 彫刻の変わらない形の中に綴じ込められていて、見方によってそれがまったく反転してしまうとか、そういうものを読み取ってもらいたいです。それからここはすごくぼんやりできる場所なので、遠くの方に思いを馳せるような機会になったらいいなと思っています。また、2024年のお正月に奥能登の震災が起きました。過去の作品であるけど、震災を乗り越えてこの時期に展示することで何か、意味が生まれるのではないかと思っています。

Q. ­ぷかりさん橋にこの作品を展示しようとした理由がありますか?

中谷: ここでやってと言われたからという理由もありますけど(笑)ここって、海の上に浮いていて、常に揺れていますよね。意識を変えてみた時に、ふっとこの揺れが自分の身体の揺れか、この建物の揺れか分からなくなりました。そういうところがすごく面白いなと思っていました。彫刻をつくる上で強固な地面みたいなものが自分の中で大前提とされ過ぎていたんだなと驚くと同時に、そういう条件みたいなものを覆されて面白いような難しような感じがしています。

Q. 立ち入り禁止の線をビーズにした理由がありますか?

中谷: ここは基本的に無人で監視の人もいないし無料で入れます。安全性も加味してインスタレーションの中は立ち入りできない形で展示をすることになりました。そのため柵を設置しなくてはいけなくなったのですが、観客に対して拒否、拒絶ではない、できる限り和らげた形の境界線を作りたいと思って、子供と一緒にビーズを通したんです。立ち入りできない。だけど強く跳ね返さないような柔らかさ。後は、海と反響するような光になったらいいなと思ってビーズで制作しました。

Q. 作品をつくる時の自分なりのこだわりがありますか?

中谷: 丁寧につくること。物を丁寧につくれているのかを作品を完成させる最後まで自問自答し続けることがこだわりかもしれないですね。

Q. 作品の色味が薄い感じがしますが、その理由はありますか?

中谷: 彫刻のマテリアルの温度から人間の温度になるようにちょっとだけの朱色、オレンジがかかった赤みたいな色を着彩しています。

Q. 次の展覧会の情報や今後の計画があったら教えてください。

中谷: 今はちょっとまだふわっとしています。来年ぐらいにまた新しい作品を発表できるように頑張っています。

今回の作品は購入ができ、収益は能登半島地震義援金として珠洲市に寄付・返還する予定であるそうです。「すくう、すくう、すくう 2024」(「掬う、救う、巣食う」プロジェクトの詳細はこちらから確認できます!

https://www.michikonakatani.com/複製-drawings

テキスト・写真・動画:JUNG