2024年6月28日[金]
今夏も、BankARTではUnder 35が開催されている。全三期中、第一期目となる今回の作家は野口雅俊と易雅静の二名だ。
野口はイタリア、易は中国・日本と、両者共に海外を拠点に活動している。本ブログで、自然の物を使いながらも人工的で不思議な世界観の作品を作る野口と、人工的な物を使いながら自然を表す易という、どこか似た要素を持ちながら対極な二人の作品をいくつか紹介させていただく。
家族が営む中華料理屋で育ったという野口の今回の作品には、非常に多くの食物が用いられている。
会場に入るとまず最初に、受付の隣にぽつんと置かれたキャベツが目に止まる。これは今回BankART KAIKOに展示されている野口雅俊の作品の中でも一際目を引く「’Til it rains《雨まで》」に使われているちりめんキャベツだ。壁一面に貼られた、一枚一枚が小さなキャベツの葉は、大きな世界地図を作り出している。
地球と同じようにまん丸な形をしているキャベツには、まるで山脈のように見える葉脈が浮き出ている。そんな類似性を見出したのは、ちょうどウクライナとロシアの戦争が始まった頃だという。特別な加工の施されていないこのキャベツは、時間経過とともに色あざやかな緑から茶色へ、挙句は黄色へと変化していく。まるで地球が枯れていくかのようなこの作品は、ぜひ期間をあけて、回数を重ねて見てほしい。二度目、三度目に見るときには、最初に見たときとは全く違った感覚を抱くだろう。
さて、会場を進むと、今度は易雅静による作品のゾーンとなる。一番最初に目に飛び込んでくるのは、壁から垂れ下がっている半透明のビニールだ。「it is vain to fantasize a wilderness《一片の荒野を無駄に幻想する》」というこの作品は、すぐ隣にあるストローと樹脂を用いた作品と相まって、見ている者に滝を連想させる。易の作品にはストローやテープなどの透明度の高いものが多く用いられており、流れる水のように瑞々しく爽やかな空間が広がっている。特に印象的なのは、「Filling up the Void《無を満たす》」という作品だ。会場奥に広がる、真っ白な空間には輪っか状のセロハンテープが無数に散りばめられており、その影がまるで海面のような模様を織り成す。
本展覧会の会期は7月21日(土)まで。この夏の暑さによる疲れを癒す、温度感のない世界をぜひ一度体感していただきたい。
執筆:中村芽
写真:中川達彦
野口雅俊作品
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易 雅静作品
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オープニングの様子
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野口雅俊
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易 雅静
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