[Yokohama Re:Portside Project Vol.2]8月のリサーチツアー「エットレ・ソットサスについて学ぶ」

2026年8月23日

ヨコハマポートサイド地区のシンボルである、エットレ・ソットサスのモニュメント 《THE FAMILY》。赤、青、黄の初源的な色彩とユーモアな形で構成された3つのシンボルが、街を行き交う人々を迎えます。この作品は一体どのような人が、どういう意図で作ったのでしょう? 今回はそんな疑問を掘り下げて作品の理解を深めるためのリサーチツアーです。ゲストは、現在アーティゾン美術館で開催中の展覧会『エットレ・ソットサス—魔法がはじまるとき、デザインは生まれる』の担当学芸員である杉本渚さんです。

前半は杉本さんからアーティゾン美術館での展示構成に沿って、ソットサスの半生や時代ごとのデザインの変遷を学び、それを踏まえて後半は 《THE FAMILY》の背景を読み解いていく時間になりました。そもそもデザイナーであるソットサスがこのようなモニュメントを作ることは非常に珍しいそうで、なぜこのポートサイドにモニュメントを作るに至ったのか、《THE FAMILY》に寄せたソットサス自身のテキストを読みながら探るように対話を進めました。ソットサスは次のように述べています。

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 私に機能のないものをデザインできるかどうか、またするべきかどうか、さらには、日本と遠く離れた、つまり文化的、技術的、社会的脈絡の離れたところからどうやってコラボレーションを進めることができるものかどうか、なかなか取り掛かりが見えなかったのです。そうこうするうちに、浜野氏がミラノに姿を現し、横浜の街づくり、これからの都市のあり方、人々の生活、人生設計の変容について、十数年前、初めて会ったときと変わらぬ、熱っぽい調子で語っていったのです。そこで私は、ここで彫刻と呼ばれるものが、街の飾りではなく、このポートサイドという都市の、その人々の生活の、その連続する活動の「記号」となるべきなのだと考えるに至ったのです。つまり、都市と建築のメタファーと言ってもいいでしょう。

(「GALLELY ROAD−7」1995年 企画・発行 横浜ポートサイド街づくり協議会、横浜市都市計画局より一部抜粋)

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テキストの中に出てくる「浜野さん」とは、浜野綜合研究所の浜野安宏さんのことです。 「ポートサイド地区開発プロデューサー」として《THE FAMILY》のコーディネートを担当されました。当時、ソットサスのミラノのスタジオを浜野さんが訪問した貴重な映像を皆で鑑賞しました。

映像を見ると、何パターンものドローイングが重ねられていることや、色よりも先に「形」から構想を練っていたことなどが分かって興味深いです。この造形はソットサスの60年代の代表作である、巨大な陶器を積み重ねた「トーテム」シリーズを彷彿とさせると、杉本さんと話しました。

アーティゾン美術館の展示の見どころの一つでもある「トーテム」シリーズは、インドをはじめとする旅の体験から、近代西洋とは異なる世界観、心の救済、神殿的なものから着想を得たもの。《THE FAMILY》の構想は90年代初頭なので、30年の時を経てこのトーテムの発想が生き続けていることが感じとれます。

さらに、この日のツアーには当時《THE FAMILY》の設置に直接関わっていた方も参加されており、リアルな裏話もたくさん伺うことができました!実際に作品を鑑賞しながら、「3つのモニュメントがそれぞれ父・母・子を表しているのでは?」という考察や、地元の方の間では「トーテムポール」という愛称で親しまれていることなど、ここでしか聞けないお話がたくさん交わされました。

その後は、ソットサスがデザインアドバイスを行ったという歩道橋へも登ってみました。 なんと計画段階では、作品の色に合わせて歩道橋自体も赤・青・黄にするという大胆なプランもあったのだとか。景観上の理由で今のブルーグレイ色に落ち着いたとのことですが、制作プロセスを知るだけでも味わい深いです。

歩道橋からの眺めは、ソットサスの作品だけでなく、同じく80年代にメンフィスでも活躍したマイケル・グレイブスの壁画や、YCSビルをはじめとしたポストモダンの思想が都市を彩っていることが分かります。ファインアートではなくデザイナーとして、「都市と建築のメタファー」という機能を作品に持たせ、都市に寄り添おうとしたソットサスの想いが街の風景と共に在るということ。それを知れたことで作品も、この街も、より深く味わえました。

展覧会『エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる』は、アーティゾン美術館にて2026年10月4日(日)まで開催中です。ソットサスをもっと知りたい方、 ぜひ美術館へ足を運んでみてください。そしてポートサイドのリサーチツアーも今月が最後ですので、ぜひご参加いただき、合わせて 《THE FAMILY》もお楽しみいただければ嬉しいです。

(山本愛子)


【現在アーティゾン美術館で開催中!】
「エットレ・ソットサスー魔法がはじまるとき、デザインは生まれる」
2026年6月23日(火)~10月4日(日)

詳細はこちら
https://www.artizon.museum/exhibition_sp/sottsass2026/

右:杉本 渚(アーティゾン美術館 学芸員)、左:山本愛子

かつて行政の立場でヨコハマポートサイド開発に関わった仲原正治さん

写真:中川達彦