本書は、2015年1月から3月にかけて行われたBankARTスクールの計8回の講座「戦争と美術」をまとめ、2017年にBankART1912によって出版されたものである。全222頁のうち大部分が講義を文字に起こしたもので、講座の記録資料としての役割を持つ。
全体としては、4人の講師がそれぞれの専門分野を通して、戦争と美術の関係性を見つめ直す内容となっている。
1人目の講師である東京国立近代美術館美術課長の大谷省吾氏は、“戦争画”の定義から講義を始める。戦争が直接的に描かれていない戦争画や、GHQが戦争画を“美術”か“プロパガンダ”か “戦利品”か、扱いに困っていた話などが紹介される。それらを起点に、戦争画の位置付けを、社会全体の動き、そして画家としての藤田の評価の変遷と比較しながら探っていく。
2人目の講師である大原美術館特別研究員、京都造形芸術大学教員の林洋子氏は、藤田嗣治研究のスペシャリストである。二つの世界大戦と日中戦争を経験した藤田は、各々の戦争に対して異なる態度を示す。彼の内面の変化とそれが彼の“戦争を描く作品”にどう影響したかが明らかにされる。
3人目の講師の河田明久氏は、千葉工業大学教授で戦争美術を専門とする。河田氏の授業は、日本で戦争が多かった明治期と昭和期に分かれる。前者では戦争を国民に伝えた浮世絵の役割、後者では日中戦争と太平洋戦争の描かれ方の違いにスポットを当て、戦時下で画家とその作品に要求される“役割”を探る。
4人目の講師の木下直之氏は、東京大学教授で、静岡県立美術館館長である。前編の講義では、戦争に関する“モニュメント”の変遷を時代に沿って辿る。言葉や人物を刻んだ彫像から、凱旋門、原爆ドームまで幅広く戦争の記念碑を扱う。後編では、戦争を伝える“スペクタクル”という観点で神田際の行列、大名行列から軍隊の行列、パノラマ館や映画へと講義が繋がっていく。
本書は、戦争画をその時代に照らし合わせて、当時の人々にとって戦争とは何だったかを浮き彫りにする。戦争とは何か、その中に存在する美術とは何かを再考させられる一冊である。
いかに戦争は描かれたか(2017年4月発行)
A5判 224ページ
¥1,200+税
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