艶やかな漆黒の表紙に惹かれて思わず手に取った一冊。
そこには『首くくり栲象(たくぞう)』と鮮やかな赤い文字でタイトルが刻まれている。
本書は、20年以上にわたって自宅の庭である『庭劇場』で首を吊るパフォーマンスを行い、2018年に逝去した首くくり栲象を追った写真家 宮本隆司氏による写真集だ。冒頭の宮本氏の文章からはじまり、首くくりが行われる『庭劇場』へ誘われるように進んでいく写真、首をくくる栲象氏の写真のあとには、家屋で過ごす日常を捉えた写真も収められている。
そしてそれらの栲象氏の姿にはどれも、彫刻作品のように静寂の中に存在する生の美しさがある。
新鮮な驚きだったのは、首をくくるという同じ行為においても、栲象氏はその時ごとに違う表情を見せているということだ。
人間としては当たり前のことなのだろうが、栲象氏がどれだけ生身の精神で首くくりに向かっているのかが伝わってくる。
宮本氏によると、『首くくり栲象は自分の行為にまつわる神秘的な想いを嫌っていた。「毎日、庭で首をくくっています」とごく普通のことをやっているように言っていた』そうだ。また、宮本氏は家が近かったこともあり、約十年間栲象氏の姿を写真に収めてきたという。近い距離での関わりであったからか、写真集には首くくり以外の人間味のある栲象氏の姿も映し出されている。その中でも大量の書物の壁によりかかり、うたた寝をする栲象氏の写真があるのだが、なんともその『うたた寝の姿』の方が『首くくり』よりもまるで死に近いような様子である。そうして首くくりの写真に戻って見てみると、その姿はどれほど生きている姿なのだろうと思うのだった。
最後には演劇評論家である長井和博氏による克明に描かれた首くくりの文章と栲象氏の略歴も見ることができる。
この本を通して残された『首くくり栲象』という一人の人間の生きた痕跡を、私たちはどのように受け止められるだろうか。
宮本隆司:首くくり栲象(2018年12月発行)
B5版 108ページ ハードカバー
¥2,200+税
ご購入希望の方は、ホームページをご覧ください。
http://www.bankart1929.com/bank2020/book/index.html