すこし雨模様のなか開催されたのは、BankART Schoolでも講師を務めたことがある、建築ジャーナリストの磯達夫さんによる「戦後の名建築をめぐるツアー」です。
横浜で建築というと、現在県立歴史博物館となっている、旧横浜正金銀行本店などの近代建築に着目されることも多いのですが、そうではなく、むしろ新しめのものを対象にしたツアーとなっています。
今回のツアーの中で、建築を主なテーマとしたツアーはもう一つ五十嵐太郎さん、菅野裕子さんによる「様式建築を細部から楽しむツアー」があったのですが、両方とも非常に人気が高く、あっという間に満席になっていました。人気に違わず、磯さんのわかりやすい解説もあり、今回のツアーもとても興味深く楽しめるものでした。
なかなか全ての魅力をお伝えできないかもしれませんが、同行した桑原がツアーの様子をお伝えします。
朝、KAIKOで集合、いよいよ出発です。
KAIKOのある横浜北仲ノットはKAJIMA DESIGN、そこから見える横浜市役所、横浜アイランドタワーはそれぞれ槇総合計画事務所の設計です。極端に特徴的なディテールがあるという訳ではありませんが、この時代の建物という感じです。そこから、馬車道にはいり、旧富士銀行の建物や、馬車道大津ビルほかは、さらりと横目に見ながら、関内ホールへ向かいます。(このあたりが、ツアーの特徴が出ていて面白いですね。テーマ外のものは流す感じ。)
関内ホールは芦原建築設計事務所、ソニービル、東京芸術劇場などの作品で知られています。都市景観に配慮するという特徴を活かし。入口がすこし内側に引いた形での建物となっています。そのため、馬車道側に余裕のある空間が生まれています。(ここでも、パブリックアートツアーでは説明するマルタ・パンの作品はさらりとかわす感じです。)
側面を通り、関内大通り側へ移動して、中区役所正面玄関の扉を見ます。こんなところにも歴史が残されているということを発見しつつ、関内駅方面へ。
で、見えてくるのが、横浜にはほとんど他に無い磯崎新アトリエの作品「マルタン本社ビル」です。当時は「おおー、磯崎作品だぁ」と感動しましたが、冷静になってみると、ちょっとロボ感がすごいですね。当初は文具店でしたが、様々に変遷があって、現在は飲食系のテナントが入っているビルです。外観はほぼ当初のママを保っていますので、なかなか貴重な建築です。
そこから、すこし路地に入っていきます。
実は細い路のところにも、注目すべき建築が多いとのこと。まずは住吉町新井ビルへ。こちらは創和建築設計事務所の手がけたもの。
横浜では戦後復興のために、防火帯建築を積極的に活用して他に類のない密度で建築を行っていますが、こちらもその一つ。詳しい説明は省きますが近年リノベーションを積極的に行い、新たな活用とクリエイターの集積が起こっているビルの一つです。(このあたりは別のツアー、「クリエイターが集まる街、関内外を訪ねる」クリエイターご参照の程)このツアーではこの後もいくつかこの「防火帯建築」を鑑賞しましたが、いずれも入り組んだ構造や階段、中庭の設置などなど風情のあるものが多く見られました。まだまだ取り壊されずに残っているのが、横浜の複合的な魅力を形成しているのかもしれません。
そこからは細い路地へ、まさかあれか、と思っているとあれです。引用の塊ともいえる石井和紘建築研究所の「同世代の橋」。ディテールのいくつかは失われていますが、未だに独特の存在感。それぞれのディテールが、どの建築家のものかを考えるのも楽しい建築です。個人的には、住宅入口部の「六角鬼丈の木の根っこ(「樹根混住器」)」のディテールがなくなっていたのが残念でした。参加した皆さんも、こんな建築が横は何あるんだ、と新たな発見をした感覚。
その後、弁天通三丁目共同ビルをへて、モダンな外観の大規模木造建築、「PortPlus 大林組横浜研修所」を鑑賞。一見して木造とは思えない形と、木目をこれでもか表に出したデザインはなかなかのものです。綺麗なビルですね。
その後は神奈川県新庁舎(坂倉淳準三建築研究所)、を経て象の鼻パーク/テラス(小泉弥生/小泉アトリエ)で休憩です。ここまででもかなりおなかいっぱいな感じですが、まだ続きます。磯さんから建物のコンセプトなどの説明を聞いた後、そこで大さん橋国際客船ターミナルの説明を聞き、再度移動。横浜開港資料館をへて、開港広場(高橋志保彦建築設計事務所)へ行きます。
開港広場は横浜の姉妹都市との関係を表したデザインに、設置当初は、中央の噴水は全く柵がなく一体的なデザインとなっているものでした。公園としてはなかなか画期的なデザインのもので、当時としては非常に斬新だったといえます。その後協会との間に、トイレなどを要する壁泉が整備されました。
そこでシルクセンター(坂倉準三建築研究所)の説明を受け、中区役所へ移動します。
中区役所は、東京海上火災ビル、神奈川県立図書館・音楽堂、東京文化会館などで知られる前川國男建築設計事務所によるもの。コンクリートの外壁は日本に向かないと前川が考え、進めた、「打ち込みタイル」による外壁を持ちます。現在も外壁は非常に綺麗で、前川の考えが正しいものであったことを表しているといえるとの説明でした。1983年の建築ですから、それなりに古い(内部はそれなりです)のですが、外観はとても綺麗に見えます。タイルの色が深みがあっていい雰囲気です。
そこからは中華街へはいり、徳永ビルへ向かいました。こちらも、防火帯建築ですが道路側に中庭が開かれ、階段や渡り廊下がよくみえます。階段のリズミカルなギザギザがアクセントになって面白いデザインです。
さて、ツアーももう少しで終了です。
最後に人形の家(坂倉建築研究所)、と山下公園(横浜市建築局+緑政局、坂倉建築研究所、総和エクステリア)へ向かいます。
磯さんの説明では人形の家はポストモダン建築の傑作とだと思うとのこと。繰り返し現れる山形のデザイン、全体の形などとても趣があるということでした。
それに連なる山下公園も、再整備部分は様々なデザインが施された凝ったものです。流れや噴水などは、少々ガウディっぽいですね。
最後に、本日の総括をして、山下公園で解散となりました。
今回のツアーでは、戦後から現在の建築まで幅広く見学をしましたが、新しいもの、古いもの、それぞれに時代を反映して作られたことがわかり、また、街を見る新たな視点が得られたように思います。古いものをただ取り壊すのではなく、新たに息を吹き込んで活用していく試みも見られ、これからもまだまだ魅力を増していくのかなという期待も持てました。
新しい魅力に気がつけたツアー、長丁場、ご説明をいただいた磯さん、ありがとうございました。