90年代より日本のコンテンポラリーダンスの黎明期を開拓した振付家・ダンサー、伊藤キムがBankART Stationに初登場!
2016年に旗揚げしたフィジカルシアターカンパニーGEROの、3年ぶりの新作公演「カラダノオト」を上演した。
会場内に入ると、観客を導くように無数の靴が吊り下げられており、その先のパフォーマンスエリアには、8名の普段着に包まれた裸足のダンサーが「展示」されている。
観客は自由に展示空間を歩きながら、オブジェとしての身体を鑑賞する。
水滴のようなかすかな音に反応するように、緩やかに動き始めるダンサーたち。
黒い衣装に身を包んだ伊藤キムが、戯れるように椅子を空間に一脚ずつ配置してゆき、展示空間は徐々にパフォーマンスの空間へと変容してゆく。
この冒頭は、鑑賞者の受動的な姿勢を、能動的でセンシティブな探究心に変えてゆく装置として機能した。
ダンサーは普段着を脱ぎ去ってカラフルでスポーティフな衣装へと替わり、空間は一気に躍動感を得てゆくが、この作品では「言語」がいくつも用いられている。
それは運動から発する息づかいであり、カウントアップする数字であり、感情を伴わないうめきであったりする。
つまり言語を持ち込みながらも「意味」を持たせることを回避し、身体が生み出す「現象」として私たちに提示している。
それは、コミュニケーションが複雑化した現代社会における言葉の役割と人間のあり方にフォーカシングしてゆく行為にも映る。
そしてこの作品は、伊藤キムの「叫び」で終わりを迎える。
日本が生んだ世界初のコンテンポラリーダンスである舞踏のメソッドを踏襲しながらも、現代社会のテーマにしなやかに踏み込み、身体でしか解けない問いを「問い」のまま私たちにぶつける作品であった。
「カラダノオト」は、思ってもみないほど私たちの内部で響いていることに、気づかされた。
なお3/19(土)の公演後には「アフター突っ込んだトーク」が開催された。
観客の中から希望者を募り、伊藤キムとGEROのメンバーと一緒に車座になり作品について意見交換をする様子を、他の観客が見守るという独自の形式。
リラックスした空間の中、3名の参加者からは作品を深く洞察するのみならず、現代社会を透視してダンスを捉える意見も聞くことができ、実りの多い交流の時間となった。