現在開催中の「BankART Life V」の空間で中村恩恵氏が久しぶりに舞った。コンクリートにさく、花、海、家、輝く星を巡る旅だ。
中村氏は、犬になり、狐になり、魔女になり、娼婦になり、馬鹿になり、賢者に、そしてダンサーになり、全ての空間を支配した。中村氏の自決の一人旅、ターニングポイントとみた。
展覧会タイトルの「観光」には「光を観る=こころの中の真実を見つける」という意を込めたが、一人の天才の努力と鍛錬と経験が司る身体が、見事に照準を定めたダンスだったと思う。
日本郵船歴史博物館と 2017年9月2日
今回「BankART Life V」は、日本郵船歴史博物館と協働することができた。
博物館の休憩室に、PHスタジオの代表作「船、山にのぼる」の映像と写真を展示している。また「BankART Life V」のパスポートか「横トリ2017」半券を持っていると入場料が無料になるという特典もつけてくれた。
この歴史博物館、実をいうと昔から深いつながりがあり、博物館ができる前は、現在のBankART Studio NYK(=旧日本郵船倉庫)の2Fが船の歴史資料館だったのだ。NYKの床にのこる年代のプレートサイン等が、当時の痕跡である。
坂本龍馬ゆかりのこの巨大海運会社の歴史博物館、この機に是非一度訪ねてみてください。
Cafe Live 2017 安野太郎「大霊廟II」 2017年9月1日
BankART Life Vの1F / kawamata Hallでは、一般公募と推薦枠でセレクトされた「Cafe Live」のシリーズを行います。公開制作を行いながら、その成果を公演に結実させていき、同時に各アーティストのDVDも刊行します。
トップバッターは、安野太郎「大霊廟II」。作曲家の安野太郎が、2012年から続けているゾンビと呼ばれるロボットが演奏する音楽のプロジェクトです。PCから送られる演奏データ(指使い)をもとに、作家の指でかたどられたシリコンが笛の指穴を抑え、リコーダーの歌口に空気を送り込むことによって奏でられます。
今回は、12台の自動演奏リコーダー、2台の発声機械。そして、2立方メートルの大きな空気袋に人間が足踏みふいごを踏むことで、直接空気を送り込むというなんとも大がかりな装置での演奏です。
自動演奏リコーダーの奏でる音色のうしろから、動力となる人間の作業音[ふいごの軋む音、息遣い]が重なるその光景は、なんとも奇妙で体験したことのない合奏でした。
公演前は、公開制作という形で、仕込みや制作を見学することができるようにしています。kawamata Hallに突如あらわれた装置と音色に、多くの来訪者に衝撃を与えていました。
ドックフードでできた犬 2017年8月27日
「この犬はドックフードでできています」と話すと皆さん驚かれます。続けて「ドックフードで原型をつくってそれを雄型にして、石膏で雌型をつくってそれを鋳造で」と説明すると、納得してくれます。犬がえさでできているということには変わりなく、何か不思議なトートロジーを感じさせる作品になっています。
「遠くからみると本物の犬みたいに走ってきそうで怖い」という感想もよく耳にします。同じ作者の象やカバも今回、河岸に棲息していますが、それらも一見すると具象的でわかりやすい作品ですが、よく見ると不思議な構造になっています。
最近は動物の糞をテーマに作品をつくっているようで、通常の彫刻の概念からはかなりジャンプした作品群を展開しています。
Under35の第二弾「廖 震平」展スタート 2017年8月25日
Under35の第二弾「廖 震平」の個展が始まった。会期は8.25~9.13
『具象/抽象という分け方がある。便利なのでぼくもしばしば使うけれど、必ずしも明確な分け方ではない。というより、ずいぶんいいかげんな分類だと思う。たとえば、もの派は具象か抽象か? と問われて明快に答えられる人はどれだけいるだろう。木材や石などのモノをそのまま使うからこれ以上の具象はない、いや、なにか具体的なものを表わしているわけではないから抽象だ、と意見が分かれるに違いない。同様に、ジャスパー・ジョーンズの《旗》は具象か抽象か? ジョセフ・コスースの《1つと3つの椅子》は?
具象も突きつめれば抽象に寝返るし、抽象も一皮むけば具象に化ける。具象か抽象かと問うこと自体が愚問なのだ。では、廖震平の絵画は具象か抽象か?(笑)』
村田 真「彼が描くのは風景ではなく、絵画だ。」個展小冊子より引用
関川航平さんのパフォーマンス(8月1日ごろからスタート~現在も続く) 2017年8月22日
はじめ、「手の届く範囲」で見事なドローイングを披露してくれた。次は油粘土(ベージュ)で何やら日記のような文章を壁に描き出した。と思いきや今度は粘土に絵の具を混ぜ込んで別色(黄色)の粘土でそれまで描いた文章の上書きをし始めた。これで終わりかと思うと粘土で埴輪のような小さなオブジェを次々と造り出し、再び壁面の方は別の色の粘土で文字を重ねだした。外はといえば、部屋の前のテラス側の鉄扉の埃を消しながら、全面に日記を展開している。毎日、変幻自在の変化を見せるパフォーマンスというか日常というか、とらえどころがないのが大きな魅力だが、もっと驚くのは出来上がった空間が、ずば抜けた造形力を感じるものに「仕上がって」いることだ。
プロフィールはこちら
http://www.bankart1929.com/kanko/career/sekigawa.html
続・朝鮮通信使2017 2017年8月20日
2010年にスタートし、人に会う、地域を訪ねる、パレードを行う、コンサートやシンポジウムや展覧会を開催する等、様々な活動を通じて新しい交流のネットワークを構築してきた「続・朝鮮通信使」。今年はこれまで培ってきた関係をさらに展開して、韓国の各都市の重要な施設や組織と協定を結び、交換AIRプログラムを行っている。現在は、釜山文化財団からジョン・ユンソン氏、ソウル市立美術館からはジャン・テウォン氏、インチョン文化財団からはノ・ギフン氏がバンカートにスタジを構え、制作している。9.18からは光州市立美術館から2名来浜する予定である。日本人は、蔵真墨、太田真吾、黒田大祐、中川達彦、下西進
詳しくはホームページを参照
http://bankart1929.com/archives/1928
観光〜BankART Life V(第一弾)
「観光〜BankART Life V」がスタートした。
BankART Studio NYK全館の展示と黄金町バザールの道程にあるいくつかのプロジェクトとオプションのツアーからなるプログラムだ。
NYKの1Fと河岸は、柳幸典さんのふんころがしや開発好明さんの犬の三兄弟、井原宏蕗さんの象やカバや犬(ドックフードで型を作り鋳造した作品)等が並ぶ。海上には紆余曲折があり設置が遅れたが、7.5×18mの台船が姿を現している。横浜市が企画している「Creative Waterway」のプログラムのひとつだ。夏らしい楽しい企画を計画する予定。
2Fは普段行っていることを普通にみせている。コレクション、アーカイブ、交換AIR事業(滞在制作/現在はジャン・テホンとジョン・ユンソン)、スクール、書庫、続・朝鮮通信使、他。トリエンナーレは確かに大きなイベントであるけれど、私たちにとってはこの時期もひとつの日常であることには変わりないのだ。
3Fはみかんぐみがデザインした家に封印された光を訪ね歩く小さな心のツアー(観光)だ。丸山純子さんの自然光の中に咲く無音花の小道、それに続く高橋啓祐さんの青い光の海は無意識の心の風景を覚醒させてくれる。
『わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといっしょに
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の
ひとつの青い照明です
(ひかりはたもち、その電燈は失はれ)』(宮沢賢治 春と修羅より)
知らない家を巡るのは楽しい。様々な家の主が多様な音色を響かせている。岡崎乾二郎さんの作品は、「かたちの発語展」のときよりも、より艶かしい表情を見せているし、壁の中を飛ぶ中谷ミチコさんの鳥やどこまでも追いかけてくる少女の目は誰も忘れることができない。電球に黒曜石、蛍光灯に大理石というシャレッケが人をにやっとさせる石黒健一さんの作品、高い位置にあるふたつの窓と反応させる諫山元貴さんのホワイトアウトの映像作品、韓国からのレジデント作家テオの沈黙のスライドショーが続く。
次のブロックではトップライトからの光が福田絵里さんの絵画をやさしく包む。永久回転運動する電球の謎はいまだに解けないが、ユーモアあふれる小さな作品の作者は1Fミニギャラリーで個展開催中の片岡純也+岩竹理恵さんだ。
「そこにいる」ことを今回のテーマとするパフォーマー関川航平さんは既にひとつの頂点を極めている。鈴木理策さんの睡蓮は、地中美術館のモネの部屋を彷彿させるし、盗撮のような状態で撮影し続け全国を巡ったのは佐藤清隆さんだ。ぎーこ、ぎーこと苦しんでいるような、喜んでいるような、大きな車輪は、小部屋の窓からの光を受けて太陽光パネルが動かしているから驚きだ。大谷石をゆっくり刻印しながら石の音を聴く作品も同じ作家の牛島達治さんだ。そして3本の煙突から届く光が美しい最後の部屋にはBankART Studio NYKの河岸でとれた野菜がお供えされる。
(続く)