電子音響音楽の創出に関わる満足感高いワークショップ、今回は「BankART Life7」ツアー担当の桑原がレポートします。
今回のツアーはワークショップ主体で、日常、聞き流している様々な「音」を改めて認識し、「音」に関する感覚を高めていくフェーズと、「音」自体を作り出し、それを素材に「音楽」を作り出していくフェーズに分かれています。13時から17時までとなかなか長丁場。前半の部分はともかく、後半はどのように進むのか、興味津々です。
さて、始まりました。
最初に電子音響音楽や環境音についてのレクチュアを少し。電子音響音楽は、「なんの音か」より「どんな音か」を中心に音を味わうもの、「音が出ているからには、その原因となることが目に見える形で起こっているはず、それと音を一体化して感じる」ということなのだというお話。この後、マリー・シェーファー(カナダを代表する現代音楽の作曲家。サウンドスケープの提唱者)の本「世界の調律」で述べられていることや、ロバート・カーソンの「46年目の光」のエピソードなども交えての説明は、これから「音を聴く」ことに関しての意識を高めてくれました。
その後、記録用のシートを受け取って外へ出かけます。BankART Stationの前の通路、外の広場、歩道橋の上などで耳を澄ませ、どんな音が聞こえてくるのかを記録していきます。
意外に難しかったのは、最後に歩道橋の上で行った、「どんな音が・どんな順番で・どっちから」聞こえてくるかを記録して行くというもの、3つの要素をどのように記録するかを考えながら書いていくのが思いの外大変でした。
その後、戻って、各参加者が聞こえた音を発表していきます。自分がそのとき聞こえていなかった音を記録している人がいたりして、はっとします。記録の仕方もいくつかあって、例えば「こどもの話し声」、「エスカレーターの音」といった記録の仕方もあれば、「ブーン」「コツコツ」「ドンッ」といった、いわゆるオノマトペ的なものもあり、そういった面でも、それぞれとらえ方が異なるのだなと人との違いを再認識しました。
そうやって「音」に対する感性を高めたあと、休憩を挟んで、いよいよ、「音」を創り、それを紡いでいくという作業になります。
今回は、あらかじめ何か音を出すものを各自持ってくるということで、各人、いろいろ持ってきています。ペットボトル、ネックレス、ホッピーの瓶とバリエーション豊か、柴山氏は「オイルが少し残る缶の中に小石のようなものを一つ入れた」という品で、少し遅れて「コトン」と落ちる感じの音が気に入っているとのこと。参加者は最初に名前を言ってから、持ってきたものを音素材として録音していきます。
全員が録り終えたら、各自に用意されたパソコンでその音を材料に15秒ほどのフレーズを創っていきます。利用するのはAudacityというサウンド編集ソフト、基本的な編集は易しい操作でできるもので、初めてでしたが割とすんなり操作できました。
しかし、操作は出来るものの、意図したようなフレーズを創るのが難しい。これまでいわゆる「打ち込み」作業は少し経験があるものの、「ガイドのリズム無し」、「そもそも素材の長さや音程がない」もので、「こんな感じにしたい」というものに近づけるのがむちゃくちゃ難しい。正直、できあがったものはイメージしたものとだいぶ違ってしまいました。しかしとにかくあっという間に時間が過ぎて、作業時間終了。作成したものを、みんなで聴く時間となりました。
音の使い方など、当たり前ですがみんな違って面白い。「フレーズ」というには少々抵抗があるけれど、こんな感じのものを創りたいのよ!という意図のようなものが伝わってきます。おまけに、柴山氏の「いやー、この音の使い方がいいですねー」とか「ここで、間があるのが表現を拡げてますねー」とかの絶妙な褒め方で、なんだか、「電子音響音楽創れちゃってる、俺~」みたいな気分になります。
長丁場でしたが、時間があっという間にすぎ、満足感高めでワークショップを終えました。今後、今回の音、フレーズを元に、編曲して、BankART Stationで行われるコンサートでお披露目となります。(5月26日(日)を予定)
今回参加してみて、「電子音響ピープルプロジェクト」が目指す「音楽の受け手としてではなく、少しヘンテコな音楽を自ら創るアーティストとして、共にその体験を楽しむこと」を、充分に感じられるツアーとなっていたことを改めて実感しました。