「あんま」は土方巽の初期の代表作です。1963年に、土方巽Dance Experience の会「あんま — 愛欲を支える劇場の話」として上演されました。その作品の与えた衝撃は半世紀を経ても、見た人の心を去らないようです。笠井さんとトークに参加される巖谷さんもそのときの観客でした。「あんまの方へ」はその「あんま」へ近づこうとする笠井叡の強い意志を感じさせる作品です。「あんま」がぐるりと演者を囲む観客の視線のなかで起き、有無を言わせず丸ごと観客をパフォーマンスに巻き込んだように、「あんまの方へ」も、2階の展示会場を満員の観客を引き連れて移動していきます。人が多くて見えないから、背伸びして、人と人の間から見える位置を探していく。笠井さんのあふれ出るような即興舞踏を、観客は「見る」のではなく自分自身の「体験」として受け止める時間でした。