【アートラーニング・インタビュー #20】BankART Life7 参加アーティスト・佐藤邦彦 by BankART実験広報部

こんにちは、BankART実験広報部のとうです。今回は、「Retouch」というモニュメントをモチーフにした写真作品を制作された佐藤邦彦さんにインタビューをさせていただきました。

– 今回の作品について教えていただけますか?

佐藤: 横浜にあるさまざまな発祥の地を示すモニュメントを撮影した写真シリーズです。「Retouch」というタイトルなのですが、写真を撮影した後に、そのモニュメントに書かれている碑文をフォトショップで削除しています。

– 主にどの辺りで撮影を行ったのですか?

佐藤: 横浜の関内エリアにあるモニュメントを中心に撮影しております。

– この作品のコンセプトについて教えてください。

佐藤: モニュメントの碑文をレタッチして消しましたということなんですけど、言葉があると人って安心できるというか、モニュメントを見て、言葉が目に留まって、なんとなく意味を認識する。ただそれ以上に興味を持つことなくそこで終わってしまう。けれども モニュメントから文字を消してしまうと、急に落ち着きがなくなって不安な感じがしてくる。意味のある対象がただの物になる。そうすることで、初めてそこで示されている言葉の意味や、物体としての造形に目を向けるようになるのではないかと考えました。

– なぜ文字を消すことにこだわったのですか?

佐藤: 写真でもアートでも、キャプションを見て何となく「理解した」ような気になってそれ以上見ないという経験があると思います。モニュメントの碑文は、ある意味で「歴史のキャプション」のようなものだと考えていて、それを消すことで観る人が歴史を考えるきっかけになるかなと思いました。

– つまり、観客に「想像に任せる」ということですね?

佐藤:  そうですね。たとえば展示作品の中には新聞の発祥の地が2つ、公園の発祥の地が2つあります。どちらかが嘘だということではなく、表現を変えることでそれぞれ確かに発祥の地を示している。それらを見比べると、発祥とは一体何なんだろうという疑問が浮かんできます。他にも海水浴発祥地と言われる場所があるけれど、縄文人も海で泳いだだろうし、何を持って発祥なのかなど、そういったことを考えるきっかけになればいいなと思っています。

– 発祥や発明について考えると、定義するのが難しいですね。

佐藤: そうですね、電話の発明はエジソンなのかベルなのかなど、特に発明などは同時多発的に起こったケースが多いと思います。このようなオリジナルを主張する際に、歴史の編集的な側面があらわれると感じています。言葉を少し変えるだけで、どこでも「発祥の地」を主張できる。横浜だけでなく神戸や長崎にも「日本発祥の地」があり、世界を見渡すとどこかに「世界発祥の地」がある。言葉で説明されていることを深く考えてみると、いろいろなことが見えてきますね。

– 「Retouch」というタイトルも意味深いですね。

佐藤: 文字をレタッチして消しましたというだけでなく、私なりの美意識で写真が魅力的になるようにレタッチを施しています。世の中に流通する写真は何らかの形でよりよく見えるようにレタッチされているはずです。写真以外のものはレタッチされていないのだろうか?言葉は?歴史は?そのようなことを考えていました。

佐藤さん、ありがとうございました。

このインタビューを通じて、「Retouch」の背後にある考えが少しでも伝わると嬉しいです。