BankART出版紹介 vol.9 村田 真『Artscape 1999→2009アートのみかた』

本著はWebマガジン「artscape」に1999年から2009年まで掲載された村田真氏の展覧会レビューを一冊にまとめたものであり、村田氏の世紀をまたぐ日々の足跡や展覧会への率直な所感が伺える内容となっている。展覧会の規模やジャンルも多様で幅広く、記録として、また読者が村田氏と同様にアートウォッチングをする毎日であれば、この展覧会は確かにそうだったなど自身の感想と比べる楽しみ方もあると思われる。

ただ、相当な数のレビューではあるが、辞典ではなくあくまで著者の自由な観点でセレクトされているため、その年代の展覧会を網羅するといった完全性を担保するものではない。そのため索引や年表などはないのだが、それはそれとして掲載されている展覧会を場所、時期、分野で俯瞰、一望出来る様にまとめられた一覧表を見てみたいとも思う。

著者がいつ何に興味関心を抱いてどこへ向かったのか、そこは展覧会がどういった内容だったかといった記録集であれば特に取り立てる事もないかもしれない。が、これだけ長い年月をほぼ毎日、ライフワークとして鑑賞し続けるその軌跡がどういったものだったのかも気になるのだ。

一人が鑑賞する展覧会だけでもこれだけの量がある、そこから更に年間どれだけの展覧会が開催され、ギャラリーではどれだけの展示が開催され、アートイベントはどれだけ開催されているのか、国内だけではなく海外ではどうかと関心を拡げていくきっかけとなる様な著作である。

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アートのみかた(2010年5月発行)
A5判 512ページ
¥2,500+税
ご購入希望の方は、ホームページをご覧ください。
http://www.bankart1929.com/bank2020/book/index.html

BankART出版紹介 vol.8 リターンから撤収までの記録『新・港区』

「新・港区」は、横浜・新港ピアに拠点を構え、2012年から2年間の期間限定で50組を超えるクリエイター達のシェアスタジオであった。本著では、そこに住んでいたクリエイター達による2年間の活動が記録されている。さらに、同プロジェクトを推進・応援してきた関係者の寄稿文やシンポジウム「クリエイターがまちに住むこと シェアスタジオの可能性」などが掲載されており、「新・港区」という一つのプロジェクト記録だけでなく、都市にアーティストやクリエイターを誘致することで社会に与える影響について重層的に学ぶことができる一冊である。

さて、本著の編入作業はユニークな方法である。具体的には、住民会議という自治から選出された編集委員と管理運営者側が協働して、可能な限り住民が参画する形で進められている。例えば、住居人の紹介は自己紹介だけでなく、他の住居人による他己紹介も掲載されている。そのためか、住民同士の関係性やシェアスタジオの空気感が本からでも伝わってくる。また掲載されている寄稿文からは、アーティストやクリエイターの可能性を信じ、前例のないことに挑戦しながら、都市の中で文化芸術を育んできた人々の同プロジェクトに対する想いがひしひしと伝わってくる。

地域を活性化するためアーティストやクリエイターを誘致する動きが盛んな昨今。その効果には賛否両論あるが、ぜひ本著を手に取って考えてほしい。

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新・港区(2014年3月発行)
B5判 224ページ
¥1,800+税
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BankART出版紹介 vol.7 小さな未来都市『新・港村』

『新・港村はあらゆる国と種類のクリエイターが働く蜃気楼のような小さな未来都市です。』

「新・港村」の挨拶はここから始まる。

横浜トリエンナーレ2011の特別プログラムとして、8月6日から11月6日の期間限定で、横浜・新港ピアにて突如として出来上がった小さな未来都市「新・港村」。そこに住む住人(村民)は国内外の約150のアートイニシアティブチーム達。はたしてその村で何が起きていたのか。本著はその記録を辿る記録集である。

ページをめくると、4400平方mの巨大な建物の中で、住人であるアーティスト、クリエイター、NPO、オルタナティブスペース関係者等による展覧会やパフォーマンス、制作活動、レクチャーなどの記録や、新・港村Cafe LIVEや大野一雄フェスティバル、展覧会「横浜プレビュウ」などの様子が写真やテキストからうかがえる。さらに、「新・港村」の空間や意義に関して、BankART代表池田修氏とみかんぐみ・曽我部昌史氏による対談や池田氏による寄稿文などが掲載されており、ミクロな視点だけでなくマクロな視点からも同プロジェクトを考察することができる。

あらゆる国と種類のクリエイター達が横浜に集まった全80日間。本からでも伝わってくるクリエイター達による熱気をぜひ感じていただきたい。

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新・港村 小さな未来都市(2012年5月発行)
B5判 272ページ
2,400円+税
ご購入希望の方は、ホームページをご覧ください。
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BankART出版紹介 vol.6 『美食同源』

横浜・馬車道にあったBankART19292棟を始め、関内外広域で展開された「食と現代美術」の記録集。「食と現代美術 part1」(2005年)と、続編にあたる「食と現代美術 part2」(2006年)の内容を紹介。合間には読み応えあるコラムもあり、全160頁にわたる充実したフルコースのような図録である。

地図を眺めて店名を確認すると、聞き覚えのある名前が多いが現存しているのはどれ位だろうか。「横濱芸術のれん街」と称した周辺の飲食店を舞台にした企画では、食をテーマに制作された作品が、1作家1店舗の組み合わせで展示された。食器として供されるもの、什器に擬態したもの、作家本人がふん装して出迎えるパフォーマンス。設置というよりも潜入という感覚が近い。

「横浜 食の展開」の章では、横浜の郷土酒とも言えるビールや、横浜での都市農業について、歴史や展開が解説されている。また老舗店や新参店のオーナー達へのインタビューも収録されている。開店当初のエピソードや店名の由来など、歴史を感じる逸話もあり興味深い。

15年も前の出版であるにも関わらず、まるでこれから開催されるイベントを心待ちにするかのように、記された作品それぞれへの興味が尽きることはない。本書を片手に想像力をかきたてながら、かつての横浜に想いを馳せ、新鮮な視点で街を歩くこともできるのではないだろうか。

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『美食同源』[現在、在庫なし]

監修:井上明彦、編集:BankART1929

A5判 160ページ
2006年2月発行

BankART出版紹介 vol.5 『100人先生~横浜の東アジア』100人の市民先生による100の講座

学校の黒板と思わしき背景。何やらおじさんが学ランを着て両手を広げている姿。そして、100人先生というタイトル。表紙からコミカルな雰囲気がただよっているその本を手に取ってみると、それは総勢100人の市民たちが先生となり開講された様々な講義の記録集となっていた。

本著「100人先生〜横浜の東アジア」は、作家の開発好明氏が企画したものであり(表紙のおじさんが開発好明氏)、BankART LifeⅥ「東アジアの夢」のプログラムの一つとして開催。201581日から113日の95日間 BankART NYKにて、タイトルにある通り100人の市民が先生となり100の講座が開催された。期間中は、市民先生が日頃あたためていた「実は得意なもの」や「みんなが知らないこと」を中心に授業が行われた。

100人の市民先生による講義をすこし覗いてみることにしよう。開発好明氏による「応援先生」を皮切りに、「空気よめない先生」「古代火起こし先生」「美術とエロ先生」「震災避難者先生」「ふんどし先生」..ユニークなタイトルに好奇心をそそられるが、それに負けじ劣らず個性的な先生たち。彼ら・彼女ら自身がそれをこよなく愛していることが本からでも伝わってくる。どれも魅力的な講座だが、個人的には「段ボール先生」「セルフビルド先生」「不法占拠先生」あたりを受講したい。ホームレスにでもなるつもりなのかと思われそうだが(笑)

最後に、開発氏は「100人先生の魅力は、『誰もが先生、誰もが生徒になれる』」と述べる。人と比べて自分は劣っていると感じる競争社会の中で、短所ばかりに目を向けるのではなく、自分の好きなものや自分にしかできないことに目を向けよと、思考の転換を促しているように感じる。さて、私は何の先生になれるだろうか。

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開発好明『100人先生 -横浜の東アジア』(2015年7月発行)
A5判 96ページ
880円(税込)
購入希望の方はホームページをご覧ください。

BankART出版紹介 vol.4 『横濱モボ・モガを探せ!』

「モボ・モガ」とは何ぞやと思った方。筆者もその一人だった。そう、モボ・モガという言葉を知らない世代なのだ。どうやらこれは「モダンボーイ」「モダンガール」の略語らしい。

プロジェクト「横濱モボ・モガを探せ!」は、1920年代から戦前まで横浜に数多くいたモダンボーイ、モダンガールを探すというものであり、前回ご紹介した展覧会「横濱写真館」をきっかけに動き出したものである。このプロジェクトの集大成として、20063月に横浜みなとみらい線馬車道駅構内で、写真展が開催された。

さて、本書では1900年代初頭の横浜の様子(横浜港や伊勢佐木町など)や当時の流行の最先端をいくモダンボーイ・モダンガールの姿を、過去を振り返る文章とともに、辿ることができる。
昔の写真を見ながら、戦前から戦後の横浜にタイムスリップする。さすが横浜港が開港し外国との交流が盛んな場所なだけあって、人々の身なりは和服ではなく洋服だった。そして、ダンスやワルツを踊り、外車を乗り回す。

これらの写真を振り返りながらよく残っていたなと驚くと同時に、よく発掘したなと驚く。というのもの、このプロジェクトを始動するにあたって発足されたチームは、自分の足で横浜に住む人々にヒアリングをし写真を探してきたからだ。それがいかに大変だったかは容易に想像がつくだろう。
最後の方に、1929819日に横浜の関内上空を飛ぶドイツの飛行船GRAF ZEPPELIN「ツェッペリン伯号」を写した写真が載っているが、その発掘力に情熱や執念さえも感じられる。

写真が歴史を可視化し、1枚の写真を通して世代を超えて語り合う。土地の歴史と分断されてきた人々が、写真を通して過去と結びつく。数多の歴史の上に今があると感じるのではないだろうか。記憶を残すこと、次に継承することがいかに大切かを考えさせられる本であった。

「開港5都市モボ・モガを探せ!」につづく..

執筆㋖
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横濱モボ・モガを探せ!(2007年9月発行)
A5判 96ページ
1,100円(税込)
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BankART出版紹介 vol.3 『横濱写真館』

2004年にBankART1929YokohamaBankART1929馬車道で開催された展覧会「横濱写真館」のカタログである。
本展は、旧銀行であった歴史的建造物の全室を使用し、第一線で活躍する写真家たちの作品が展示された。作家には、石内都氏や宮本隆司氏、小山穂太郎氏、鈴木理策氏、山崎博氏、北島敬三氏、楢橋朝子氏、佐藤時啓氏、森山大道氏など錚々たる顔ぶれが。この面々が一堂に会しただけでも迫力があるが、今回は各作家に新進気鋭の若手作家を推薦してもらい、新旧入り混じる総勢19人の参加となった。
さらに、従来のホワイトキューブではなく旧銀行という特異な空間で展示されたのだから、またとない機会だっただろう。
作家たちがどんな作品を展示していたのか気になる方はぜひ本カタログを手に取っていただきたいが、ここでは石内都氏の作品を少しだけご紹介。

横濱の本牧の接収地に建設された米軍居住施設「ベイサイド・コート」。石内氏は、この朽ちていく建物の写真と傷跡の写真を同時に展示。二項対立を表現することで、目に見えない「時間」と「空間」への意識を促した。

写真家の視線を通して、横濱や日本を改めて見てみてはどうだろうか。

執筆㋖
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横濱写真館(2004年10月発行)
A5判 127ページ
1,572円(税込)
購入希望はホームページをご覧ください。

#横濱写真館 #BankART1929 #BankART出版 #横浜 #creativecity #artbook #art

BankART出版紹介 vol.2 川俣 正 『Expand BankART』

今回取り上げたい書籍は、2012年から2013年にかけてBankART Studio NYKで開催した川俣正展「Expand BankART」のカタログだ。BankART Studio NYKの象徴的な作品となった本展覧会の足跡を辿ることができる。

本カタログは、これまでの川俣氏の軌跡を振り返ることが出来る全作品目録、本プロジェクトに向けたスケッチや模型などが載っている「Plan for Expand BankART」、本展や関連イベントBankART schoolの様子などが記録された「Documentation of Expand BankART」の三巻構成だ。

一冊一冊見応えのあるものとなっているが、特にプロジェクトの痕跡を見ることが出来るカタログも含まれているのは、「制作プロセスそのもの」も作品であるという川俣氏の作風に合った見せ方である。

本プロジェクトの特徴的な点は、プランと作業をほぼ同時進行で行ったことである。横浜という「場」と、そこで出会った「人」と関係しながら、絶えずプランを変え生み出されていった。残念ながら現在は施設自体が解体され作品を見ることは出来なくなったが、この場で起きた変化やコミュニケーションはしっかりと本カタログに残されている。

また、現在は三冊まとめて販売されている本カタログだが、当時は三回配本される仕組みとなっており、最後の記録集は展覧会が終了した後に配送されるという前払いシステムになっていた。現在では、いくつかの美術館などでも同様なことが採り入れられているが、本カタログがその先駆けとなったのは間違いないだろう。

執筆:㋖

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川俣 正『Expand BankART』
A4変形判 3冊セット 計352ページ
¥3,000+税
購入はこちらから
http://www.bankart1929.com/bank2020/book/index.html

BankART出版紹介 vol.1 BankART入門編「City Living BankART1929’s Activities」

「この書籍はこれまでの活動のエッセンスです。横浜に誕生したBankART1929がどのように都市に棲み続けてきたかを感じ取っていただければ幸いです。」

本書の冒頭に書かれている説明文の最後の一節である。

「棲む」という表現がBankARTらしいなと感じるが、この本はまさにBankARTの「生態」を垣間見ることが出来る。同施設を知らない人にとっては入り口となるような、知っている人は過去を振り返り懐かしく思うだろう。

本書の構成は2004年〜2015年までのBankARTの活動を13つの項目に分けて紹介している。ページをめくりながら、しみじみと「色々なことをしているな〜」とその活動の幅の広さに改めて驚く。

というのも、川俣正氏や原口典之氏など大規模展覧会をやっているのかと思えば、U35シリーズなど若手作家を支援する活動も行なっている。また、美術だけでなく大野一雄フェスティバルなどパフォーミングアーツも企画しているし、横浜トリエンーレとの連動企画「BankART Life」もある。さらに、活動は国境を飛び越え、続・朝鮮通信使シリーズとして韓国や、横浜市と台北市の交流プログラムなども活発に行なっている。

例をあげれば枚挙にいとまがなく、一つずつ紹介していくと日が暮れそうなので、ここまでにしておきたい。

もし気になる展覧会やプロジェクトがあれば、それぞれの活動をより詳しく紹介した単独の本があるので、ぜひ読んで頂きたい。

ここまでつらつらと書いてきたが、最後に私が言いたいのは「BankARTを知りたければこれを読め!」の一言に尽きる。

執筆:㋖

『City Living -BankART1929’s Activities』
B5変形判 184ページ
¥1,200+税
購入はこちらから
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