本書は2010年にBankART Studio NYKで行われた朝倉摂氏の大規模な個展に際して出版されたもので、朝倉氏による絵本原画や挿絵、舞台のイメージ・コンセプトドローイングのほか、福原義春氏との対談の内容も収められている読みごたえのある一冊だ。
朝倉氏は本書が出版された当時、88歳を超えても現役で国内外を駆け巡り、舞台美術家として活躍してきた方だ。舞台美術家として関わるジャンルも現代劇、歌舞伎、商業演劇、オペラ、ミュージカル、バレエ、日本舞踊、コンサートと実に幅広く、また日本画出身というだけあって、本書に収められているドローイングや挿絵など平面上での表現力の高さにも驚かされる。
様々な舞台写真が収められている中で特に印象的だったのが、2007年の『動物園物語』の舞台装置である。柔らかい光が差し込む樹々の下でベンチに座り本を読む男性。目を凝らしてみると、木の幹には縦に線の入った梱包用のダンボール資材が、そして葉の部分には網状に切れ目の入った梱包用紙が用いられているようだ。ランダムに光が漏れる様、そして風にそよいでいるような軽やかな気配は、まるでふと公園に迷い込んだかのような自然な印象を受ける。
絵画という二次元の表現に飽き足らず、三次元、四次元の拡がりをもつ舞台芸術の世界へと羽を広げていった朝倉氏。ノンフィクション作家の吉岡忍氏による語りの中で、「変わっていく感じ方のなかで、いま作っている舞台をもう一度見直してみるっていうことはしょっちゅうあります。だから、一回作ったものを壊すことは、私にとっては当たり前なんですよ。」という朝倉氏の言葉には、生きる姿勢そのものが現れているようだ。
朝倉 摂「アバンギャルド少女」(2010年9月発行)
A4変型判 224ページ
¥2,000円+税
ご購入希望の方は、ホームページをご覧ください。
http://www.bankart1929.com/bank2020/book/index.html