BankART出版紹介 vol.16 渡辺 篤 『アイムヒア』

本書は2020年2月11日に刊行された現代美術家渡辺篤の作品記録集である。
氏はひきこもり当事者としてのベースを持ち、社会的弱者の声を当事者の側から掘り起こし、鑑賞者を自己批判的に逆照射する作風で知られる。

本書の構成は渡辺篤のプロジェクトの概要と成果を、章ごとに分けて構成している。また、章の途中には美術評論家福住廉による渡辺篤の作家性と作品性をソーシャリー・エンゲージド・アートの観点から論じている。
渡辺篤の作品には、多くの社会的弱者としてのバックグラウンドを持つ当事者たちが、プロセスに参加しているため、本書を読むときに、読者である自分もまた、誰かを攻撃していたり、攻撃されたりしている当事者性が惹起される。

この本そのものの表装がひび割れたデザインになっているのは、その作家性を代表する「ひび割れ」ではなく、読後感を暗にほのめかしているのかもしれない。

金継ぎによって、一度壊れていたものが再生する過程のように、現代社会に生ける私たちの荒んだ心を癒している。そう思いもした。
福住廉は本書で渡辺篤の作品についてこう書いている。
「テーマとメディウムが見事に調和している」と。

ひきこもりという社会的課題が、物体を持って我々に問いかけるような氏の作風は確かに、アート的であり、社会的でもある。

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渡辺カタログ4を拡大表示

渡辺カタログ7を拡大表示

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「アイムヒア」渡辺 篤(2020年2月発行)
B5判 80ページ
¥1,000+税
ご購入希望の方は、ホームページをご覧ください。
http://www.bankart1929.com/bank2020/book/index.html