BankART出版紹介 vol.6 『美食同源』

横浜・馬車道にあったBankART19292棟を始め、関内外広域で展開された「食と現代美術」の記録集。「食と現代美術 part1」(2005年)と、続編にあたる「食と現代美術 part2」(2006年)の内容を紹介。合間には読み応えあるコラムもあり、全160頁にわたる充実したフルコースのような図録である。

地図を眺めて店名を確認すると、聞き覚えのある名前が多いが現存しているのはどれ位だろうか。「横濱芸術のれん街」と称した周辺の飲食店を舞台にした企画では、食をテーマに制作された作品が、1作家1店舗の組み合わせで展示された。食器として供されるもの、什器に擬態したもの、作家本人がふん装して出迎えるパフォーマンス。設置というよりも潜入という感覚が近い。

「横浜 食の展開」の章では、横浜の郷土酒とも言えるビールや、横浜での都市農業について、歴史や展開が解説されている。また老舗店や新参店のオーナー達へのインタビューも収録されている。開店当初のエピソードや店名の由来など、歴史を感じる逸話もあり興味深い。

15年も前の出版であるにも関わらず、まるでこれから開催されるイベントを心待ちにするかのように、記された作品それぞれへの興味が尽きることはない。本書を片手に想像力をかきたてながら、かつての横浜に想いを馳せ、新鮮な視点で街を歩くこともできるのではないだろうか。

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『美食同源』[現在、在庫なし]

監修:井上明彦、編集:BankART1929

A5判 160ページ
2006年2月発行

いちはらアート×ミックス鑑賞ツアー

千葉の市原市で開催されている、「いちはらアートミックス」の鑑賞ツアーを開催。船頭は、アートフロントギャラリーの原蜜さんと奥野恵さん。乗船者はバンカートの新旧スタッフ10名プラス1名だ。事前にきちんとしたツアー計画とタイムスケジュールがセットされていたので、朝9時〜夕刻4時まで(食事時間込)の短時間で新旧のゾーンの主な場所を鑑賞することができた。

個々の作品にも触れるべきかもしれないが、今回は全体の印象だけにとどめたいと思う。

線路沿いのプログラムと聞いていたが、実際には1/時間の電車でツアーするのは難しいらしい。我々は車2台に分乗して現地を駆け巡った。それにしても、今回も北川フラムさんらしく、広いエリアの不思議な場所を巡らせるプログラムだ。これまでの妻有や瀬戸内とどこが違うかというと、いいにくい言葉になるが、前者二カ所は、過疎は進んでいるが、建物や自然はやさしく、こちらを迎えてくれる雰囲気が残っており、尖っていたり、痛々しくは感じない。ところが、今回巡った場所は、「廃墟」そのものの場所が多く、昭和の時代にせっかちにつくられてきた日本の郊外都市の、せっかちな崩壊を露骨に感じてしまう空間なのだ。作家の大半が、その状況をとらえ、「バナキュラー」な印象から出発し、そこにあるものを引用し、作品化しているものが多いし、それはそれで、きれいなもの、豊かなものもあるが、ときによっては見る人に「いたたまれない哀しさ」を与えてしまう行為のようにも思えるのだ。「どう感じたらいいのか」わからない感覚に陥ってしまう。もっと自分勝手に、この滅び行く空間から自立して、間違っていてもいいから好きなように、新しいメッセ—ジを送ってくれたら、なんてことを思ってしまうのだ。

展覧会として意図した部分は十分伝わってくるし、いくつかの力強い作品にも出会えたし、全体としては楽しく巡る事はできたが、そこから先、我々はどこに向かい、共働してけばいいのか?北川フラムさんは、何をみせたかったのだろうか?この問いかけには短い時間では、答えはでないようなツアーであった。

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右の男性:原蜜氏、中央緑の服の女性:奥野恵氏

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高橋啓祐「いつもの時間」

2022年12月29日 @北仲ブリック&ホワイト歴史広場(BankART KAIKO外)
BankART KAIKOがある帝蚕倉庫の復元施設、北仲ブリック&ホワイトの歴史広場に、高橋啓祐氏の映像作品を挿入した。横浜市が推進するイルミネーションのイベント時期に併せての開催。昨年のドライエリアでの展示に続き、今年は壁面に映像を投影。3つのゼンマイ仕掛けの時計を羊や象などの動物たちが忙しなく動くことで、時を刻むアニメーションを投影。長針が12時に重なると、文字盤が開き、パフォーマーの映像などが展開する。年末で、寒く慌ただしい時期であったが、早足で歩く通行人も、この映像の前では足を止め、写真を撮ったり、子供たちもぴょんぴょん跳ねたりしながら映像を楽しんでいる様子が見られた。道ゆく人の気持ちを落ち着かせてくれるような作品だ。

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高橋啓祐「いつもの時間」
2020年12月8日から2022年1月30日まで 17:00~24:00
北仲ブリック&ホワイト歴史広場(BankART KAIKO外)

BankARTschool ヨコハマみなとみらい物語Ⅲ 神奈川大学

みなとみらい物語は、急ピッチで開発が進んでいる「みなとみらい新高島地区」を中心に、その歴史や開発の仕組みなどを考えるゼミである。今回は、みなとみらいに新しく校舎を設立した神奈川大学の事務局の3名からお話があった。

1人目の講師である田島和久氏は神奈川大学の沿革について、2人目の講師である高嶺徹氏は、キャンパスの整備計画について、3人目の講師である田中純平氏は、大学の地域社会との連携について、それぞれ講義を行なった。

講義終了後は、受講者も興味を持った方がたくさんいたようで、質問も数多くあった。実際、市民に開放された本棚や食堂、学内外の起業志望者や中高生を対象としたプロジェクト、隣接した資生堂など民間企業との共同事業など、従来のイメージの“学校”とは異なる、オープンで地域と関わり合う大学を目指していることがよく伝わってきた。一般市民は校舎内に立ち入ることすらできない大学なども多くある中で、地域の市民と交流するだけでなく、実際にプロジェクトを協力して行っているのは非常に進歩的であると言える。

一方で、やや形式的な発表だったことも否めない。大学が推しているはずの建築学科の教諭ではなくゼネコンに新校舎の設計を依頼した理由など、深掘りして聞きたいトピックは講義になかった。神奈川大学が今後、みなとみらいの車輪の一つの中心になっていくためにも、さらなる斬新なアイディアと学生を伸ばす学校づくりに期待したい。

左から、田島和久氏、高嶺徹氏、田中純平氏

BankART出版紹介 vol.5 『100人先生~横浜の東アジア』100人の市民先生による100の講座

学校の黒板と思わしき背景。何やらおじさんが学ランを着て両手を広げている姿。そして、100人先生というタイトル。表紙からコミカルな雰囲気がただよっているその本を手に取ってみると、それは総勢100人の市民たちが先生となり開講された様々な講義の記録集となっていた。

本著「100人先生〜横浜の東アジア」は、作家の開発好明氏が企画したものであり(表紙のおじさんが開発好明氏)、BankART LifeⅥ「東アジアの夢」のプログラムの一つとして開催。201581日から113日の95日間 BankART NYKにて、タイトルにある通り100人の市民が先生となり100の講座が開催された。期間中は、市民先生が日頃あたためていた「実は得意なもの」や「みんなが知らないこと」を中心に授業が行われた。

100人の市民先生による講義をすこし覗いてみることにしよう。開発好明氏による「応援先生」を皮切りに、「空気よめない先生」「古代火起こし先生」「美術とエロ先生」「震災避難者先生」「ふんどし先生」..ユニークなタイトルに好奇心をそそられるが、それに負けじ劣らず個性的な先生たち。彼ら・彼女ら自身がそれをこよなく愛していることが本からでも伝わってくる。どれも魅力的な講座だが、個人的には「段ボール先生」「セルフビルド先生」「不法占拠先生」あたりを受講したい。ホームレスにでもなるつもりなのかと思われそうだが(笑)

最後に、開発氏は「100人先生の魅力は、『誰もが先生、誰もが生徒になれる』」と述べる。人と比べて自分は劣っていると感じる競争社会の中で、短所ばかりに目を向けるのではなく、自分の好きなものや自分にしかできないことに目を向けよと、思考の転換を促しているように感じる。さて、私は何の先生になれるだろうか。

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開発好明『100人先生 -横浜の東アジア』(2015年7月発行)
A5判 96ページ
880円(税込)
購入希望の方はホームページをご覧ください。

YPAM2021 – 横浜国際舞台芸術ミーティング

2021年12月1日〜19日
@BankART KAIKO & BankART Station

「YPAM」と聞くと、「?」となる人もいるかもしれない。これまで「TPAM – 国際舞台芸術ミーティング in 横浜」と称していたイベントが、「YPAM – 横浜国際舞台芸術ミーティング」と名称を変え、この度新たに開幕したのだ。YPAMとは、国内外の舞台関係者が、公演プログラムやミーティングを通じて交流するプラットフォーム。BankARTでは、舞台芸術のプロフェッショナルによるトークを中心とした交流プログラム「YPAMエクスチェンジ」と、公募プログラムである「YPAMフリンジ」を開催している。

「YPAMエクスチェンジ」は、12月1日(水)〜 16日(木)の期間のうち11日間、1日3コマ程度行われた。(詳細はYPAM2021プログラムを参照)コロナの影響で海外のクリエイターの来日が難しくなったが、オンラインでタイ、韓国、中国、台湾、カナダ、アメリカ、オランダ、オーストラリア…など世界各国から舞台関係者が登壇した。聴衆も同様に海外から多くの参加があったようだ。物理的距離があっても世界中が参加する本プログラムは、コロナ時代の新たな国際イベントの姿といえるだろう。

「YPAMフリンジ」は、BankART KAIKOで『空間と戯れる音たち』(
恩田晃他)というライブパフォーマンスやその他、連日、一流のパフォーマーが、音、肉体、空間、時間を駆使して、表現の極限に肉薄する内容の発表が続いている。また、BankART StationではベテランのARICAの『ミメーシス』の連続公演が続く。

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以下、
YPAMフリンジ企画『空間と戯れる音たち』
撮影:前澤秀登

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シュウゾウ アヅチ ガリバー 作品を語る

115日からBankART Stationにて「シュウゾウ アヅチ ガリバー 作品を語る」という連続講座が開催されている。2022年10月にBankARTにてシュウゾウ・アヅチ・ガリバー氏(以下、ガリバー氏)の展覧会「消息の将来(仮題)」を開催予定で、これはその前哨戦となるような講座だ。毎回ゲストを招きながら、謎に満ちた同作家の作家性や作品性に迫っていくわけだが、驚くべきはゲストの豪華さである。美術ジャーナリストの村田真氏から始まり、滋賀県立近代美術館館長・保坂健二郎氏や美術評論家・福住廉氏、横尾忠則美術館・館長補佐兼学芸課長の山本淳夫氏などが、独自の切り口から同作家の作品を語っていく。

ガリバー氏がどのような人物かはぜひチラシやネットにある情報を読んでもらうとして、ここでは既に終了した第一回目(11/5)と第二回目(11/26)の所感を述べたい。本講座は、前半はガリバー氏、後半はゲスト講師の話が展開される。はじめに断っておくが、ガリバー氏はどの回も話は脱線し、「あさっての方向」に突き進んでいく。言うまでもなく、これは作家を揶揄する意味ではなく、それが作家の個性でありユーモアであると思うからだ。さて、そんなこんなでしばし参加者は置き去りになるのだが、話の節々に作家の核となるような部分が見え隠れする。そして、毎回のゲストが独自の視点で語っていくことで、現代のアートシーンに触れながら、客観的にガリバー氏の作品を紐解いていくことができる。特に、第二回目では保坂氏が文化人類学者・ティム・インゴルドの著作「メイキング」を引き合いに出し、同作家は「つくるというより対応している」と述べていたことが印象的だった。

この後も年をまたいで続々と講座が開催される。ぜひ、この機会にシュウゾウ・アズチ・ガリバーという人物や作品に触れていただきたい。

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以下、第一回目[11/5]

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シュウゾウ・アヅチ・ガリバー氏

村田真氏

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Tanker Project – Prologue:Road to documenta fifteen 展スタート!

2021年11月19日(金)-28日(日)  BankART KAIKO

11月19日から28日まで『Tanker Project Prologue』というタイトルの展覧会がBankART KAIKOにて開催されている。今、インターネットによって世界が“統一される”ことで軋轢が生まれている。それを乗り越えるため、“仮想と現実の海に、アートのエネルギーを載せて航海する”というのが本展のコンセプトである。

会場に足を踏み入れると、まず視界に飛び込むのが天井から吊り下げられたタンカーの精巧な模型だ。栗林隆のこの作品は、現実の中の“想像上の海”に浮かぶタンカーをイメージさせる。小さな巨船は植物を大量に積載し、一つの島のように独立した生態系が世界を旅しているかのようだ。

その奥には電球が巻きついた小屋がある。そこにはサーカスのようなどこか懐かしい賑やかさがある。Cinema Caravanの本展示は、逗子海岸映画祭を再現したそうだが、まさに自分が移動したような感覚に包まれる。

キューバの風景画のパズルが崩れた向こうに本物の写真があるというカルロス・ガライコアの作品や、カメルーンで人気のボードゲームが置かれた“移動式カフェ”など、外国の作家の作品も、移動というテーマを日常に設営するのに大きな役割を果たしている。

全体として“移動”というテーマでまとめられていることが、一つ一つの作品の個性を際立たせており、とてもワクワクする展覧会となっている。一つ残念なのは、Caravanや光る矢印のサイン、二台とそれを曳く自転車などが、入った時に正面から見えないことだ。会場に足を踏み入れた瞬間、異世界へ移動したような雰囲気を作れれば、一歩目から“日常の延長としての移動”を感じられたかもしれない。

以下、主催者より

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Tanker Project – Prologue: Road to documenta fifteen 展 開催中!

Tanker Projectは、作家・栗林隆が長年温めてきた、タンカー船を改造し、自由に動く島をつくりたいという思いをもとにArtTankと発起したプロジェクト。現代の様々な場所で生じている軋轢を乗り越えるアートエネルギーを船に載せ、世界中に届ける構想です。インターネット上の仮想の海から始動し、実現に向けて活動する過程の一つ一つを現実世界の展覧会やプロジェクトに仕立てながら、本物のタンカー島の就航を目指し進めていきます。

このたび、栗林隆と乗船アーティスト CINEMA CARAVANが、ドクメンタ152023618日―100日間)参加決定したことを機に、キックオフ展を開催する運びとなりました。テーマは 「旅・移動・Lumbung(ルンブン)」です。

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出展アーティスト・団体: 栗林隆(日本)、志津野雷(日本)、CINEMA CARAVAN(日本)、バルトロメイ・トグオ(カメルーン/フランス)、バンジュン・ステーション(カメルーン)、カルロス・ガライコア(キューバ/スペイン)、アーティスタ×アーティスタ(キューバ)。

旅・移動      世界のあちこちで移民についての考え方が社会問題となっていた近年、突如地球を覆ったコロナ禍は、私たち人間の様々な移動について根本的に問い直す契機となりました。Tanker Project 構想の源にもまた、場所(土地)を巡る人間の諍いから自由を求める希求が、あるいは、様々な地域の差異を前提とした共生する社会を実現したいという思いがあります。バルトロメイ・トグオ(カメルーン) 、カルロス・ガライコア(キューバ)、栗林隆(日本)、志津野雷(日本)は、それぞれに、旅や移動をテーマとした作品を作り続けています。アフリカから見える格差と移動(移住)、西欧から「発見」された新大陸から見る人間の移動の意味、溢れる情報を疑う旅、地球の美しさと営みを探求する旅とその表現は様々です。彼らの作品を通して、私たち人間がなぜ移動し続けるのか、再考する契機となれば幸いです。

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Lumbung(ルンブン)とはインドネシアの米蔵とそれを管理する共同体を差す概念で、来年開催されるドクメンタ 15のテーマ です。上記の4名の作家たちには、それぞれの故郷や拠点でライフワークとして取組む活動、チームがありました。Tanker Project は、アーティストだけではなく、作家たちの創作の源となる思いや活動を共に載せ、航海していきます。これまでの概念では、アーティストとは呼ばれない活動やチームも、Tanker Projectにおいては、大切なエネルギーを創り出すアーティストなのです。こうした活動やチームのことを、ドクメンタ 15では、Lumbungと呼んでいます。CINEMA CARAVAN(日本、逗子)、Artista X Artista(キューバ、ハバナ)、Bandjune Station(カメルーン、バンジュン) という 共同体(活動体)をアーティストとしてご紹介いたします。

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そして、ドクメンタ15への道、と題したドローイングも展示販売中です。CINEMA CARAVAN+Takashi Kuribayashi のドクメンタ15作品制作資金となります。ドローイングのご購入を希望される方は会場にてお声掛けいただくか、プロジェクトホームページのコンタクトフォームよりお問い合わせください。

https://tanker-project.com/contact/

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展覧会名:「Tanker Project PrologueRoad to documenta fifteen タンカープロジェクト ー プロローグ:ドクメンタ15 への道」

主催:ArtTank

協力:BankART1929  

会期:20211119(金)― 1128日(日)

会場:BankART KAIKO (横浜市中区北仲通5-57-2 KITANAKA BRICK&WHITE 1階)

時間:11:0019:00 (会期中無休)

料金:700円(中学生以下及び、障がい者手帳お持ちの方と付き添い1名は無料)

トークイベント:

1123日(火・祝) 17:30 : YATAI- Road to Documenta15 トーク   ※予約優先

登壇者:栗林隆、YATAI TRIPメンバー _ 溢れる情報を疑い、境界を旅することで世界を再認識する旅 「YATAI TRIP」。 ドキュメントを観ながら、栗林とYATAI TRIPメンバーが語ります。

1127日(土) 17:30  Swells of WAVEMENT TOUR ※ ご自由に参加いただけます。

2007年の夏、海から原発や放射能の現実を学び、意識を共有した旅「WAVEMENT TOUR」。発起人の一人 志津野雷と参加者たちが、それぞれの場所で今なお感じる旅の共振を確かめ、これからの活動のビジョンを語ります。

横浜フランス月間2021「遥かなる都市」展 開催中!

2021年11月18日〜12月5日 @BankART Station

以下、主催者より

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今年で16回目を迎える「横浜フランス月間2021」のメインプログラムの一つとして、都市をテーマとした展覧会「遥かなる都市」を開催。

ウーゴ・ラ・ピエトラ、スーパースタジオ、ハウス・ルッカー・コーをはじめとした1960~70年代のイタリアやオーストリアのラディカル運動を代表する世界的な建築家集団から、ルイージ・ベルトラム、ジョルディ・コロメール、アレン・ルッパーズバーグなど、現代のフランスやスペイン、アメリカの先鋭的なアーティストたちにいたるまで、彼らが都市を研究の対象として、また実践の場として、そしてパフォーマンスや議論が生まれる場として映しだした多彩な映像作品群を通じて、都市の姿を多角的に捉えることを試みる。

出展作家(*アルファベット順)

アレン・ルッパーズバーグ、アント・ファーム、アーキズーム・アソチアティ、オレリアン・フロマン、チャールズ・シモンズ、ダフネ・ベンゴア、ジョルディ・コロメール、ジュリアン・プレヴュー、ハウス・ルッカー・コー、ルイージ・ベルトラム、スーパースタジオ、UFO (ラポ・ビナッツィ)、ウーゴ・ラ・ピエトラ

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Archizoom Associati (Andrea Branzi), No-Stop City (1971),
Courtesy Collection Frac Centre-Val de Loire

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横浜フランス月間2021「遥かなる都市」展

会期:2021.11.17-12.5 11:00-19:00 
会場:BankART Station[横浜市西区みなとみらい5-1 新高島駅地下1F]
入場料:500円 (障がい者手帳お持ちの方と付き添い1名の方は無料)
主催:アンスティチュ・フランセ横浜 共催:BankART 1929 
特別協力:サントル=ヴァル・ド・ロワール現代アート地域振興基金 (Frac Centre-Val de Loire) 
助成:アンスティチュ・フランセ パリ本部

https://www.institutfrancais.jp/yokohama/agenda/video2021/

クリエイティブクラスター「グレートリセット・スモールリブート~その後をつくる創造力」開催

2021年10月29日~ 11月14日 BankART Station

本展は、COVIDパンデミック、経済変化、地球環境とエネルギーなど、人類にとって社会全体を構成するさまざまなシステムを見直す分岐点である現在、それに対してアート思考で、時代の可能性を提示している作家14チームを集めた企画展だ。
キュレーターの岡田智博氏は、BankARTの初期から関わりがある。2005年横浜トリエンナーレと同時期に開催した「BankART Life」に出品。その後2006年には、BankART Studio NYK、2008年にはZAIM(現在のTHE BAYS)にて企画展を開催。現在は世界で活躍するチームラボなど 次世代のメディア・アーティストたちをいち早く紹介してきた。
今回もチームラボなどのメディアアートや、佐野文彦氏による巨大な石作品、再生医療というテーマをユーモラスに問題提起している岡田裕子氏など表現方法もさまざまだ。会期中にはトークイベントも3回開催する。

以下、本展キュレーターの岡田智博氏執筆。

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グレートリセット・スモールリブート

岡田智博 クリエイティブクラスター『グレートリセット・スモールリブート』展企画制作

 変化や災難がのっぴきならないかたちで全人類を呑み込む今、多くの人はそのことを「グレートリセット」といい、ある人は畏れ、ある人はチャンスとして踊り続けて、また、たくさんの人々は呑み込まれないように日々がんばっています。

変化や災難、COVIDパンデミック、シンギュラリティとAIの社会実装、一帯一路に代表される新たな経済圏の勃興と経済情勢の劇的変化と「分断」、地球環境とエネルギー、民間の力での宇宙開発AIの社会実装、そして人新生、わたしたちはこれまでとは違った世の中へといやが上にでも放り込まれる「グレートリセット」、それはまさに吞み込まれて中止となった2021年の世界経済フォーラム年次総会「ダボス会議」のテーマとして掲げられ、グローバルイシューにまで高まった強烈なキーワードとなっています。

はたして、わたしたちはこの「リセット」を前になすがままになるのでしょうか?

 芸術家や作り手の中には、その後の地図を自らの手で、さまざまな人々とともにつくりだして、創造の旗をたてる才能達がいます。そんなつくり手達による手づくり(しかし最先端)の未来へのクリエイティブな取組から、私達一人一人の道しるべとなる羅針盤を探す展覧会としてつくったのが『グレートリセット・スモールリブート』展です。

この小さいが、確実にわたしたちの未来にあかりを灯す創造を本展から「スモールリブート」(身の丈からの再起動)と提唱し、展示を通じて実感できる場をつくることで、観た方にとってのこれからの糧になればと考えてつくりました。

 本展覧会ではテーマに基づいて、私が4つの「まなざし」をもとに作家を選び、展示を構成しました。そのことで、「グレートリセット」の時代に生きるわたしたちの糧となる「アート思考」を涵養できるようにすることを狙いました。

 ここでいう「アート思考」とは、多くあるようなアートや作家のあり様を利用して価値を得るための研修的ツールではなく、作家そのものが起こす「スモールリブート」に触れることでそれぞれの方々がより、自らのこれからを築いていける多様な選択肢を得られる思考の涵養です。

まなざし1:アートが構想する未来

 アートから生まれる創造的な構想力が、物質とデータの両方がリアルになる時代の未来のわたしたちを指し示してくれます。宇宙にまで広がる私たちの生存世界の中で得る精神的やすらぎとは、AIと人間どちらにも心地よいランドスケープとは?

 わたしたちの気持ちが安らかになる未来を考えます。

チームラボの「ミュージアム」には、平均3時間以上、人々が滞在するといいます。

来館者はそのなかで自らを開放し、アートの中で時間に浸ります。

もうすぐ多くの私たちは、辞令として、宇宙に行かないといけない時代がやってきます。

地球から火星までは2年かかるといいます。月や火星には花鳥風月がなく、殺伐とした環境が広がります。ペンギンさんがおられる南極どころではない世界。そこで私たちは、必ず10年近い日々を過ごさないといけないのです。やってられますか?

そこで正気になるために耐えられる「アート」こそが、チームラボではないかと私は考えています。代表の猪子寿之さんは、いつもそれを言うとかいかぶりすぎだといいます。

そんなある日、今回の展覧会の出展について話していた際、猪子さんから「岡ちゃん、2018年になんか没になってしまって、わかってくれないんだなあ…と思った原稿があるけど、それ、この話かもしれない」と、あるマニュフェストの原稿をもらいました。

このパンデミック前に没になった原稿を読んで、なるほど、チームラボにはこういうことを期待しないで、気分良くなりたい人が多いのね、と悟りました。しかし、これこそが、チームラボからの「スモールリブート」へのマニュフェストだったのです。私がリライトして、それを世の中ではじめて、今回掲げました。

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チームラボとの将来への対話

~この問答は2018年に行なわれたものである。

(問い)2030年以降の世界はどのようになっていると思いますか?

(チームラボ)人々は、全てにおいて、意味のあることを求め出すだろう。

例えば「アイスランドの氷の大地の割れ目に流れ込む滝のように、自分の存在を超越した自然の営みが創る景色」、「300年かけて築き上げたハニ族の棚田」のように、自分の存在よりもはるかに長い時間の人々の営みが積み重なって形作られた場所、もしくは「アーティスト達が何らかの意味を見出し、人生をかけて形にしようとした作品群」そのような「意味のあるもの」へ、人々はより強く興味を持つようになるだろう。

一方、世界中で、国民国家を基盤としたローカルな人々と、グローバルに生きる、もしくはさらされる人々の間には、完全な分断が起こるだろう。

日本においてはローカルな人々が圧倒的メジャーであるために、クリエイティブで自由に生きようとする多く若者は、それとは「違う場」を基盤としていくだろう。

そしてローカルな人々の価値基準は、より純化される。

つまり、科学的な事実、世界の多様な試み、歴史上での人類の多様な生き方は、全て無視され、風土病のような頑な価値基準に純化される。そして、その価値基準からズレている人や、ミスを犯してしまった人を、魔女狩りのように徹底的に裁いていくだろう。

人々が住む都市や街には、滝も棚田もなく、AIにより、ますます暇になっているだろう。

ローカルな人々は、魔女狩りくらいしか意味を見出せず、持て余す時間を魔女狩りに使う。

少しでも他者への想像力があり、科学的な事実や、世界の多様性や、歴史を知るものは、完全な不感症になるか、森の中に住むしかない。

もしくは、アートの中に籠るだろう。

(問い)2030年以降の一般的な一日の過ごし方について説明してください?

(チームラボ)自らアートを創り、その中に籠るだろう。

(問い)シンギュラリティの世界において、どのようにすれば私たちは確実にこの技術の進化をより良い生き方のために活用できるでしょうか?

(チームラボ)もしかしたら、このシンギュラリティの「知性」とは、何かしら答えがある「問題に対する知性」かもしれない。

「知性」には、永遠と答えのない問題に対する「知性」というものがある。

(問い)2030年以降の未来の可能性を最大化するために、今の日本において何ができると考えますか?

(チームラボ)少しでも他者への想像力がある人、将来「違う場」を必要とする人に対して、アートを創り、皆にそこに籠ることを勧めよう。

——

既にチームラボは、私たちが宇宙に行かされる前に、殺伐とした「グレートリセット」の滓のような時代の中で、同じく中世がそうであった中、人々が正気を得るため、教会や寺院、モスクにアートや装飾に包まれた清浄な空間を求めたような場を、世界中の都市につくり続けているようでもあります。

そのことを確認したく、ここでマニュフェストとともに、究極に境界がなくなったデジタル絵画、そして、世界中の隔離された家々で描いた花を投げあうことができる作品を展示しました。

AIが自動運転する時代、それでも人間はそれを管理するという「運転」をドライバーはしなければなりません。

これからは、人間とAI、両方にとって良好な環境のデザインが必要になると、私は考えています。

韓亜由美さんは、道路空間にドライバーの運転意識を誘導することで、より快適にドライブでき、運転の安全性を高めるデザインを切りひらいた第一人者です。AIだけを考えたデザインだと、新東名やアクアラインを代表に、韓さんが手掛けてきたドライバーのためのデザインは必要のないものになります。

そうでしょうか?

今回、このような連続性からドライバーの意識に訴求する彼女が編み出した「シークエンスデザイン」の源流となる、速度感覚を試す没入型ビデオアート作品を四半世紀ぶりに滞在制作として復刻、改めてAI時代におけるドライバーや乗客にとっての移動環境のデザインを問い直す「スモールリブート」を行ないました。この作品は、ドイツにあるメディアアートの古典ともういうべきセンターであるZKMの初期につくられ、展示されたもの。メディアアートからの思考が、土木の世界に新たなデザインをもたらしていたのです。

ほか出展作家:岡田裕子

まなざし2 未来を憑依するアート

 この「グレートリセット」の時代、わたしたちはどのように希望を見出すのか?

さまざまな「今」を受け止めることで、これからを「いろいろな向き」に魅せてくれる作家がいます。あたかも地から未来を憑依した、作家たちの作品から、わたしたちの日常の「スモールリブート」を起こしていきます。

 Twitter にしか存在していない『クマども』。

 かわいいクマが殺伐とした日常を過ごすショートアニメーションは、毎週、その新作をTwitter上で公開する。そのアーカイブが作品集となり、何度もリツイートされ、ミームとして漂う。作家のアメさんは、そのクマどもの造形を同じくつくり、できたものを販売すると則売り切れとなる。インターネットで完結するこの『クマども』のセカイは、麻雀やストロング系ドリンク、寝そべりスマホに包まれ、殺伐とした日々のよすががある。COVIDパンデミックで宿り木となる飲食店がなくなり、新しい世代の路上飲みがアンロックされたようなよすがの「スモールリブート」の表象がそこにあります。

ほか出展作家:キュンチョメ

まなざし3 未来をつくった創造

 アートィストによる創作が、これからのライフスタイルやエンタメを創るプロダクトやそのイノベーションのためのヒントになっています。ここでは、このような日本から「未来をつくった創造」の数々を展示、あなたの「アート思考」にヒントを与えます。

 『nubot』はやすぎたスモールリブート。

 10年前の東日本大震災の直後、多くの人がさまざまな場所に「避難」しました。その中のひとつのアーティストが、東京との間で仕事を続けるためにつくったロボット、それがnubotです。ハンドメイドのぬいぐるみの顔の部分にスマートフォンを装着、ダイヤルトーンで身振り手振り動かすことができるリアルなアバターは、遠隔会議だけでなく、離れた家族との会話、会えない近しい人とのコミュニケーションを大いに盛り上げました。このコミュニケーション力に着目し、nubotを引き受けた林智彦さんは大手広告代理店を辞めnuuoを創業、2013年まだ日本では知られていなかった米国テキサスで開催されるスタートアップの巨大カンファレンス SXSW に乗り込み、日本人で初のインタラクティブビジネスの優秀スタートアップに選ばれ、シリコンバレーで操業しました。クラウドファンディングも創世記のこの時代、全てがはやすぎ、結果として nubot は時代の狭間に埋没しました。スマートフォンが肉体の一部のような存在となり、その上、パンデミックの今こそ、多くの人が意味を感じられたこのロボットに改めての「スモールリブート」を込めて展示しています。

ほか出展作家: EXCALIBURgalcidJason Scuderi (lasergun factory)Minoru FujimotomarimosphereWhatever Inc.

切り口4 もうひとつの未来文明

 今とは違う文明の姿も、もしかしたら、あったかもしれません。

そういう存在をあるひとは「オーパーツ」などといって、不思議がり、あくなく好奇心をかきたててきました。このような、もしかしたら、別の文明があったなら、もしくは、別の文明になってしまったら?という謎かけをしてくれるアーティストの作品を展示しました。私たちのとっての視覚芸術の歴史が、日本の伝統文化が、作品を通じて揺るがせます。

 最も若い数寄屋職人でもある建築家の佐野文彦は、その若い感性で世界中からひっぱりだこです。そんな佐野さんは、京都から巨石が巨木を港区の高層ビルだけでなく、ドバイや中国にまで持っていき、伝統に裏打ちされた和の空間をつくりだします。世界のどんな場所にでも塊を持っていく、その運ぶ際の仕組み、一見不安定そうだが、安定し、存在感を放つ石や巨木に「もの」の力を感じるといいます。

 巨額の資本がデータとして飛び交い、富豪であってもその巨万が質量のない数字の羅列である「グレートリセット」のゲームプレーヤーたち、しかし、その欲望は重い質量を持つ自然物であることは変わらない。「文化を尊ぶ」人間の本質を表象する、伝統からのもうひとつの見立てに感じられます。

ほか出展作家:後藤映則

 圧倒的な「グレートリセット」にあって、わたしたちにはたくさんの「スモールリブート」の方法があります。そして、この展覧会も作家にとっての「スモールリブート」となります。時代精神の表象と、そして創造の場から、これら数多の「スモールリブート」のバタフライエフェクトがどうなるのか、期待してやみません。

『グレートリセット・スモールリブート』展

URL http://reboot2021.creativeclsuter.jp/

岡田 智博

一般社団法人クリエイティブクラスター代表理事

BankART とは開設時代から関係、本展のような先端的表現を世間と共有する企画展を独自企画で開催してきた。こんな時代だからしなければと、主催としては10年ぶりの開催。

南は石垣島から北は北海道まで、各地で新しい表現の社会実装に平素は取り組んでいる。また、2021年より東京藝術大学で教養教育の充実化をコーディネーターとして担当している。

クリエイティブクラスター= http://creativecluster.jp/

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